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末梢静脈の可視性に関する文献検討

更新日:2021年3月5日 ページ番号:0002719

基礎看護学 田中 佳子<外部リンク>

【はじめに】

 健康診断や病院での採血などで対象者の血管に針を刺すこと(末梢静脈穿刺)は、対象者が痛みやその不安、失敗への不安を感じることもあり、看護師は安全で、より安楽な穿刺のため、可能な限り成功するように工夫し、看護師にとっても容易ではなく緊張する看護技術です。先行研究では、末梢静脈穿刺は、血管の見やすさ(可視性)や皮膚の上からの触れやすさ(触知性)が高いと成功しやすいことや、血管が拡張することで成功率が上がることが報告されています。
 本研究では、末梢静脈の可視性・触知性を高める検証や血管拡張の検証を行っている先行研究について、末梢静脈穿刺の実施者(以下実施者)が行う方法と、末梢静脈穿刺を受ける者(以下被実施者)が行う方法に整理し、その効果、実際への導入の可能性と課題を明らかにすることを目的として取り組みました。

【方法】

 医中誌、PubMed、CiNii を用いて、「静脈穿刺」「皮静脈」「皮下静脈」「採血」「静脈怒張」「可視性」「血管拡張」「電気刺激」をキーワードとし、症例報告・事例を除いた原著論文を検索し、要旨から研究目的に合致しないものを除きました。

【結果】

 上記方法の結果、18 文献を抽出しました。そのうち、実施者が行うことを対象にした文献が11 件、被実施者が行うことを対象にした文献が7 件でした。
 実施者の11 文献は、駆血圧(穿刺の際に腕を締め付ける圧)の検証4 件、温罨法(温める方法)に関するもの3 件、複数の方法を比較するもの2 件、振動刺激の検証、前腕内転法(腕の向きを変える方法)の検証などが1 件ずつでした。
 駆血圧は、いずれも血管怒張に適した駆血圧を検証し、40〜90mmHgが適切だと報告されていました。温罨法では、38〜45℃を保つ温罨法用具を用い、15 分間温めることで血管が拡張したと報告されていました。複数の方法では、7 種類の方法の血管拡張率を比較し、腕を下げた状態で駆血帯を装着する方法が最も拡張したと報告する文献と、5 秒間に10 回の軽く叩くと20 秒間に10 ストロークのマッサージを比較し、軽く叩く方が、血管が浅くなったと報告する文献がありました。振動刺激では、左手掌に5 分間の振動刺激を行うことで、両手掌で温度上昇があったと報告されていました。前腕内転法では、肩に近い方の腕を上に向け、手の平に近い方の腕を内側に向けると、約半数の血管の可視性が上がったと報告されていました。
 被実施者が行うことを対象にした7 文献中6 件は運動方法、1 件が電気刺激の検証でした。その内容は、20 分間の腕での自転車こぎ運動中に電気刺激を併用する方法と、併用しない方法を比較し併用する方が、運動量の異なる断続運動と持続運動の比較では断続運動の方が、週間の同負荷運動での休憩時間の長さの違いを比較し、休憩が短い方が血管拡張したなどと報告されていました。電気刺激では、周波数25Hz で30 分間電気刺激をすると血管が拡張したと報告されていました。また、3 週間の同負荷運動での休憩時間の長さの違いを比較した文献のみが縦断的手法でした。

【考察】

 実施者が行う方法では、適切な駆血圧の検証でその値は明らかになりましたが、40〜90mmHg と適切な圧の範囲が広いことや、温罨法では高血圧の対象者には血管拡張を認めない(青野ら2010)ことから、血管特性や年齢による違いを考慮した検証が必要だと考えました。軽く叩く方法や腕を下げての駆血、前腕内転法は特別な器具を用いないため導入は容易です。しかし、軽く叩く方法は適切な強さや回数に基準がないため、その検証が必要だと考えます。また、採血などの前に行われることもある手のグーパー運動などは、直後に採血を行うと採血値に異常をきたす(坂巻ら2013)ため、穿刺の直前ではなく、継続的な運動で効果が持続することが望ましいと考えます。しかし、非実施者が行う血管拡張の検証では、縦断的な検証は1 件のみでした。一方で、その他の6 件の横断的な検証でも血管拡張が認められています。これらの方法を縦断的に検証することで、可視性・触知性の向上、さらに末梢静脈穿刺成功率の向上につながると考えます。

 本研究は基礎看護学研究室の卒論生である堂之下奈月さんと教員が共同で行った卒業研究の一部です。基礎看護学研究室では、毎年卒論生が末梢静脈の可視性や触知性に関連する研究に取り組んでいます。