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加熱分解消去法によるPM2.5の炎症誘導物質の調査

更新日:2021年12月6日 ページ番号:0004364

生体反応学研究室 市瀬孝道<外部リンク>

はじめに

 人為起源のPM2.5のどのような成分が肺の炎症誘導に関与しているのかについては十分に明らかにされていない。本研究ではPM2.5を段階的に熱処理して化学成分や微生物成分を除去し、これらの加熱処理したPM2.5を用いて、細胞培養系と動物実験系にて炎症反応を調べ、熱消失物質と炎症低減効果を比較して、PM2.5の炎症誘導物質を推定した。

方法

 北京の地下駐車場から採取したPM2.5を120℃, 250℃, 360℃30分処理して、PM2.5中の微生物成分や化学成分を段階的に除去した。その非加熱PM2.5と熱処理PM2.5の成分含量を調べた。細胞培養実験では、非加熱PM2.5と熱処理したPM2.5をNAC(抗酸化剤)処置群と非処理群のRAW264.7マクロファージ様細胞に添加し、3時間後の炎症性遺伝子発現を調べた。動物実験では、これらのPM2.5の0.2mgをBALB/c系雄マウスに1回、経気道曝露して24時間後の肺胞洗浄液中の炎症細胞数、炎症性サイトカイン類、肺の組織病理を調べた。

結果

 LPS, β-glucan, BaP, 1,2-NQ, 9,10-PQやBaP-6-12-Qが120℃で顕著に除去された。しかし、DBA, 9,10-AQ, 7,12-BAQとBaP-1,6-Qは除去されにくかった。殆どの化学物質は250℃と360℃で除去され、360℃で加熱したPM2.5の残査の殆どが金属(Fe, Cu, Cr, Niなど)成分であった。抗酸化剤を添加した細胞培養実験から、非加熱PM2.5によって誘導されたRAW264.7細胞の炎症性遺伝子発現の約半分が酸化ストレスに由来するものであった。サイトカインIL-1βやIL-6は120℃PM2.5で顕著に低下し、250℃と360℃PM2.5では発現が見られなかった。
 マウス実験では、LPS, β-glucan, BaP, 1,2-NQ, 9,10-PQやBaP-6-12-Q が失われた120℃PM2.5の肺の炎症(好中球)誘導は非加熱PM2.5と比較すると58%低下した。DBA, 7,12-BAQやBaP-1,6-Qが失われた250℃PM2.5の炎症導は更に22%低下し, 金属類が残った360℃PM2.5の炎症誘導は全体の20%であった。炎症性サイトカイン類も好中球数と同様の変化を示したが、360℃PM2.5で若干増加するもの(IL-1β, TNF-α)もあった。肺胞の炎症細胞も非加熱PM2.5で最も多く浸潤が見られ、360℃PM2.5では僅かに炎症細胞が見られた。

それぞれの加熱温度で成分を失ったPM2.5を投与した時の炎症反応の強さ

考察

 PM2.5の主な炎症誘導物質は非耐熱性のLPS,β-glucan, BaP, 1,2-NQ, 9,10-PQなどで、さほど強くない炎症誘導物質は耐熱性のDBA, 7,12-BAQ, BaP-1,6-Qや金属成分(Fe, Cu, Cr, Niなど)であることが明らかとなった。 図1にそれぞれの加熱温度で成分を失ったPM2.5を投与した時の炎症反応の強さを模式的に示した。なお、本研究は以下の学術雑誌に掲載されています。
 Environ Toxicol. 2019. 34(10). p1137-1148.