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精神科看護師の暴力を受けた経験が精神疾患患者の隔離早期解除へ与える影響

更新日:2022年1月6日 ページ番号:0004431

精神看護学研究室 後藤成人<外部リンク>

背景と目的

 日本の精神科病院への年間入院患者数は約28万人であり、うち約1万人が隔離室に入室しています。これは諸外国と比べても高い水準な上、使用期間も長期間といわれています。隔離室での治療は、患者にとって恐怖や苦痛をもたらすため、精神科看護師は隔離室を使用するリスクを十分認識し、早期解除に向けたアセスメントを行う必要があります。その一方で、精神科看護師の多くが患者からの暴力(暴言を含む)を経験し、ショックやうつ状態により、ケア提供体制の脆弱化を招いている現状もあり、暴力リスクの高い隔離患者の早期解除に慎重になることが予測されます。
 しかし、精神科看護師の暴力を受けた経験と隔離患者を早期解除したいという思いとの関連に焦点を当てた報告は少ないため、本研究では精神科看護師の暴力を受けた経験と隔離患者を早期解除したいという思いとの関連を明らかにしました。

研究方法

 調査協力の得られたA県精神科病院に勤務する全看護職員(看護師・准看護師)70名を対象とし、無記名自記式質問紙調査を実施しました。質問紙では、回答者の基本属性、これまでに患者から暴言・暴力を受けた経験の有無とその内容、隔離中の患者を早期解除したいという思いなどを聞き、これまでに患者から暴言・暴力を受けた経験の有無と隔離中の患者を早期に解除したいという意識との関連を検討しました。

結果

 65名(92.9%)から回答が得られました。回答者は、男性よりも女性の割合が高く、経験年数は10年以上の看護師がほとんどでした。これまでに患者から暴力を受けた経験がある人は63名(96.9%)であり、そのうち隔離中の患者を早期解除したいと思う人は32名(49.2%)、そうでない人は24名(36.9%)でした。暴力を受けた経験と隔離の早期解除への思いとの関連を検討すると、暴力を受けた経験のある人のうち、隔離を早期解除したいと思う人は、そう思わない人よりも多いことが分かりました。

考察

 本研究の結果から、回答者の96.9%がこれまでに患者から暴力を受けた経験があることが分かりました。本調査では暴力の中に暴言なども含んでおり、先行研究の報告と一致するものでした。つまり、精神科看護師は暴力の被害に遭いやすい現状にあると言えます。一方で、これまでに暴力を受けた経験があっても、隔離中の患者を早期に解除したいと思う人の割合が有意に高いことも分かりました。暴力を受けた精神科看護師は、その受容過程において、自己の看護援助を振り返り、暴力の予防や対応について学びを深める機会としていたことが報告されているため、過去に暴力を受けた経験が、隔離中の患者の暴力リスクについてアセスメントする能力を向上させているのかもしれません。

※本研究は、A県内の精神科病院と共同で行ったものであり、日本精神科看護協会大分県支部の推薦を受け、第44回日本精神科看護学術集会で発表いたしました。