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10年間の生活習慣が医療費へ与える影響についての検討

更新日:2022年1月28日 ページ番号:0004507

地域看護学研究室 小野治子<外部リンク>

はじめに

 肥満は世界において重要な健康課題となっています。日本においても、2018年の総医療費は年間43 兆円、そのうち肥満を含む生活習慣病に関連する医療費は9.4兆円にのぼり、医療費の適正化のために生活習慣病の予防は喫緊の課題です。このような現状下において、2008年、厚生労働省はメタボリックシンドロームの早期発見と医療費削減を目的に「特定健康診査・特定保健指導」の制度を導入し、10年が経過しました。
 本研究は、特定健康診査およびレセプト(医療費診療報酬)のデータを用い、10年間の生活習慣、検査値の変化と服薬状況が医療費に与える影響を分析し、医療費に与える影響を定量的に評価することを目的としました。

方法

 A県B市の2008年に特定健診を受診した6,621人のうち10年間追跡が可能な40歳から65歳未満の2,984人を対象とし、そのうち定期的な間隔で3回以上健診を受けていた1,474人を抽出しました。さらに、特異な疾患の治療により医療費が高額となっていた11人を除外し、最終分析対象者は1,463人としました。
 本研究での医療費は、生活習慣に関する日常的な医療費の増減を検討するため、入院費を除いた外来医療費と調剤医療費の5年間の累積医療費を算出しました。
 分析は、医療費を従属変数とし、年齢、性別、ウエスト比、服薬状況、生活習慣を独立変数として、Tobitモデルによる回帰分析を実施しました。

結果

 対象者の平均年齢は68.1±5.8歳、5年間の累積医療費の平均は903,810円、中央値は722,270円であった。高血圧症、糖尿病、脂質異常症の薬を服用している者は744人(50.8%)でした。
 医療費が増加に関する回帰係数は、年齢は0.048 (95% CI : 0.04 to 0.06)、服薬状況は1.020 (95% CI: 0.88 to 1.16)、20歳からの体重増加は0.210 (95% CI: 0.06 to 0.36)であり、医療費と正の関連を示しました。1日1時間以上歩行は-0.208 (95% CI: -0.35 to -0.07)と負の関連を示しました。
 モデル式より5年間の累積医療費を推計すると、服薬の有無別は、服薬のある場合の40 歳で約50万円、75歳は約270万円でした。一方、服薬のない場合は40 歳で約18万円、75歳は約97万円となり、75歳の服薬の有無における差額は約73万円でした。服薬がなく1日1時間以上の歩行習慣のある場合、40歳は約12万円、75歳は約67万円となりました。歩行習慣のない場合では、40歳は約18万、75歳は約97万となり、75歳の歩行の有無における差額は約19万円となりました。

おわりに

 本研究の結果は、医療費の増加には年齢と服薬状況が影響し、1日1時間以上の歩行習慣は医療費の抑制と関連していました。歩行習慣は、一般住民の医療費を下げる可能性を示唆しました。

謝辞

 本研究にご協力いただきました皆様に深く感謝申し上げます。

※本研究は、International Journal of  Environmental Research and Public Health. 2020 Dec 20;17(24):9546. doi: 10.3390/ijerph17249546に掲載されており、上記はその一部を抜粋したものです。