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妊娠、産褥期における尿失禁に関する実態調査

更新日:2022年3月4日 ページ番号:0004622

母性看護学研究室  林 猪都子<外部リンク>

はじめに

 尿失禁はICS (International Continence Society:国際尿禁制学会)において「不随意に尿が漏れる状態」と定義されています。健康女性の尿失禁は出産、加齢、肥満によって尿失禁率が高くなり、出産においては、出産回数が増えると尿失禁率は上昇し、特に4回経産婦の尿失禁率は高いです。そこで、本研究の目的は、妊娠、産褥期における尿失禁の頻度とリスク因子、対策の必要性を明らかにすることとしました。

方法

 A県産婦人科医会会員の所属施設22施設にて、産後1ヶ月検診を受ける褥婦1774名に無記名自記式質問紙調査を実施しました。調査内容は、対象者の属性、尿失禁に関する項目と排尿ケアとしました。分析は、妊娠期と産褥期の尿失禁、対象者の属性と尿失禁の関係について分析しました。

結果

 調査用紙は837部の回収が得られ、793部を分析対象としました。平均年齢は31.2±5.0歳、平均分娩週数38.9±1.6週でした。初産婦は384名(46.2%)、経産婦は447名(53.8%)でした。分娩方法は、経膣分娩691名(84.9%)、帝王切開術123名(15.1%)でした。産後1ヶ月の尿失禁は218名(26.9%)で、妊娠期の尿失禁426名(52.6%)よりも尿失禁が少なかったです。その内、産後1ヶ月の33名(8.6%)に新たに尿失禁が生じており、全員が経膣分娩でした。産後1ヶ月の尿失禁は経膣分娩203名(30.4%)であり、帝王切開分娩14名(12.1%)よりも尿失禁が多かったです。
 妊娠期の尿失禁は、経産婦279名(62.1%)で、初産婦148名(41.0%)よりも尿失禁が多かったです。産後1ヶ月の尿失禁は初産婦92名(26.1%)、経産婦126名(29.1%)でした。 産後1ヶ月の尿失禁は初回分娩年齢31歳以上が81名(32.4%)で、初回年齢分娩30歳以下が137名(25.5%)よりも尿失禁が多かったです。妊娠期に骨盤底筋体操を実施した人は66名(8.2%)でした。妊娠中や産後の尿失禁などの症状に対するケアが、妊婦・産後健診時に必要と回答した人は530名(64.0%)でした。

考察

 妊娠期から産褥1ヶ月に尿失禁が減少したことは、妊娠に伴う腹圧の上昇と骨盤底筋群の弛緩が分娩後に軽減したことで、尿失禁症状が消失したと考えられます。経膣分娩が帝王切開術に比べて尿失禁が多かったこと、産後新たに尿失禁を生じた人全員が経腟分娩であったことから、経腟分娩が産後の尿失禁のリスク因子と考えられます。産後の尿失禁は経産婦に改善が見られることから、経産婦は初産婦よりも骨盤支持機能がより低下し、産後1ヶ月における腹部腹圧の軽減から尿失禁がより改善すると考えられます。産後1ヶ月の尿失禁が、初回分娩年齢が30歳以下よりも31歳以上で見られることから、加齢が産後尿失禁のリスク因子であることが示唆されました。妊娠中の骨盤底筋体操の実施率は低く、6割以上の褥婦が尿失禁に対するケアが必要であると感じており、医療提供者側の対策が求められます。

*本研究は大分中村病院西田純一先生と本学母性看護学研究室との共同研究を紹介しています。