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育児期男女のパーソナルネットワークの構造特性と育児サポート体制への課題

更新日:2018年5月1日 ページ番号:0000475

助産学研究室 安部真紀 

はじめに

 男性の家事・育児参加は本人の健康関連QOL(生活全体の豊かさや自己実現)に影響し、子どもの社会性にも直接的な影響を与えると言われています。また、家族の健康にも間接的な効果が期待されるため、女性のみならず男性を対象とした家事・育児関連サポートを検討することは必要だといえます。
 本研究では育児期における男女のパーソナルネットワーク構造を明らかにして、男性の家事・育児時間に影響する構造を検討することを目的としました。
 用語の定義:本研究で用いる「パーソナルネットワーク」とは、個人が形成する人間関係を規模・構成・密度等の変数を用いて、個人の行動や意識、態度を概観するものです。

方法

 調査対象はA県内に居住または勤務する20~49歳の男女各1131名(男性539名、女性592名)としました。対象企業はA県のワークライフバランス推進企業(しごと子育てサポート企業http://www.pref.oita.jp/site/oitarodo/workkosodate-0002.html)の中から、協力企業・事業所を産業別、従業員規模別に無作為抽出しました。抽出した企業へ質問紙を配布し、対象者から直接郵送による回収を行いました。調査に関して大分県立看護科学大学研究倫理安全委員会の承諾(承認番号848)を得て実施しました。集計・分析には統計ソフトspss.ver,21を使用し、t検定、一元配置分散分析、pearsonの相関係数を用いて分析を行い、すべての有意水準は5%としました。なお、本研究では、末子の年齢が6歳未満をもつ男女を育児期男女としました。

結果

 2014年4月~6月に配布したアンケート1131部中、有効回答624部(55.2%)を分析対象としました。男性は242名(平均年齢36.5歳)、女性は382名(36.5歳)でした。

1. 育児期男女のパーソナルネットワーク構造

 男性は平均して3~4人の親族、1~2人の近所、13~14人の職場同僚、6~7人の友人と合計23~27人規模のネットワークを持っていました。育児期男性はこのネットワーク規模を変化させず、ネットワーク構成員に親族と近所の人の割合を高め、友人の割合をやや減らす構造に変化させていました(図1)。女性は男性より職場同僚規模のみ6~7人と少なく、親族、近所、友人は同規模のネットワークを持っていました。ネットワーク規模は合計17~21人でした。また、女性は男性と同じくネットワーク規模は変化せず、親族割合を高める以外に有意な変化をしていませんでした(図2)。

育児期男女のパーソナルネットワーク構造の画像1育児期男女のパーソナルネットワーク構造の画像2

2. 家事・育児時間に影響する原因とパーソナルネットワーク構造の関連

 6歳未満の子どもを持つ男性の平日家事時間の平均は77分であり、休日家事時間と強く関連していました。また、パーソナルネットワーク構造の中で友人割合が多くなればなるほど家事・育児時間も関連して増加することが示されました(表1)。逆に、就労時間の長さは家事・育児時間の長さに弱い負の相関(-0.18)が確認されました。
 同じく6歳未満の子どもをもつ女性の家事・育児時間の平均は301分(休日664分)であり、パーソナルネットワーク構造内の親族割合が多くなればなるほど家事・育児時間は増加していました。女性の就労時間の長さと家事・育児時間の長さには関連はみられませんでした。
 以上の結果より、友人割合の多いパーソナルネットワーク構造を持つ男性が家事・育児にも積極的に取り組む可能性が示されました。

家事・育児時間に影響する原因とパーソナルネットワーク構造の関連の画像

考察

 育児期男女のパーソナルネットワーク構造は親族割合を高める構造に特化しており、育児期に必要な支援は主に親族から受ける子どもの世話や家事手伝いであることが示されました。核家族化が進み家族成員が少なく(平均2.51人)、総所得が減少し66%が生活に苦しさを感じている(国民生活基礎調査2013)育児期世帯では、子どもの世話や家事を社会的支援に頼ることが経済的に厳しく、夫婦で家事・育児の分担が図られるよう柔軟な働き方が重要である現状が読み取れました。今後は子どもの世話や家事などの実体サポートを経済的負担のない支援として検討することが重要になると考えられます。
 夫婦の家事・育児分担時間に影響する主な原因は(1)家事・育児の量、(2)時間的余裕、(3)相対的資源、(4)ジェンダーイデオロギーに整理される(松田2000)ことが指摘されています。本研究では男性のみ就労時間が長くなればなるほど家事・育児時間が短縮される(2)時間的余裕を支持する結果となりました。A県の女性は有業者の仕事時間が全国で最も長い(5時間31分、社会基本調査2011)ことが指摘されていますが、女性の就労時間と家事・育児時間に関連はみられませんでした。このことは男性の家事・育児時間が短くなることで家事・育児の負担は女性に移行することが推察されます。所定外労働時間が短い就労環境とパパクラブなど友人とのつながりがもてる支援は男性の家事・育児時間を増加させ、男女ともに必要な支援だと考えられます。
 また、男性は近所付き合いを増やすことで情緒サポートを得ていることから、地域交流への参加は育児期男性にとってより良い支援につながることが示唆されました。今後は子育て支援の視点から、男性が地域の交流に参加しやすいネットワークづくりを検討したいと考えています。

*この研究は第11回Icmアジア太平洋地域会議・助産学術集会(2015)において発表したものの一部です。また、下記の助成金の支援を受けた研究の一部です。
 平成25年~28年度科研費助成金 若手研究(B)育児期男女のパーソナルネットワークの構造特性と育児サポート体制の課題(課題番号25862201)

文献

松田茂樹(2000).夫の家事・育児参加の規定原因.年報社会学論集.2000(13),134-145.