大学紹介

ワクチン同時接種に関する乳幼児の保護者の意識調査

更新日:2018年5月30日 ページ番号:0000476

 小児看護学研究室 足立 綾

はじめに

 わが国では、2013年に予防接種法が改正され、定期接種にHibワクチン、肺炎球菌ワクチン等が追加されたことで、予防できる疾患が増えています。現在、予防接種の種類が多いことや、接種回数が複数回あること、接種時期・間隔が決められているなどの理由で、スケジュールが過密化、複雑化しています。2015年度、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、母親の就労率は68.1%と増加しています。乳幼児が集団生活をするにあたり、予防接種率の向上は、感染症予防の対策として重要です。本研究の目的は、ワクチン同時接種に関する乳幼児の予防接種の実態と、同時接種に対する保護者の意識を明らかにすることとしました。

方法

 調査は、2014年8月~9月に無記名の自記式質問紙法で実施しました。対象者はA市の14ヵ所の認可保育所に在籍する乳幼児の保護者1027名でした。調査項目は属性、予防接種の実施状況、同時接種の実施状況や意識、保育所での予防接種の支援、自由記述の計34項目です。対象者の属性と予防接種の実施状況の関連、同時接種に対する考え方については、記述統計を実施し、各予防接種の接種状況を従属変数、対象者の属性を独立変数とし、強制投入法によるロジスティック回帰分析を行いました。データの分析はSPSS Statistics 22を使用しました(有意水準5%)。本学の研究倫理安全委員会の承諾を得て実施しました。

結果

 乳幼児の保護者1027名に配布し、610部(59.4%)を回収し、583部(有効回答率56.8%)を分析しました。対象者の平均年齢は35.6±4.8歳で、続柄は、母親565名(96.9%)、フルタイム372名(63.8%)が最も多く、パートタイム175名(30.0%)でした。子どもの疾患の有無では、疾患なしが494名(84.7%)で、疾患あり89名(15.3%)でした。予防接種の実施状況では、定期接種の実施ありは567名(97.3%)で、任意接種の実施ありは492名(84.4%)でした(表1)。

結果の画像1

 予防接種の接種状況と属性との関連では、「定期接種を受けている」は、36歳未満を基準とした36歳以上のオッズ比2.95(95%CI:0.92~9.45)でした。「任意接種を受けている」は、フルタイム以外を基準とするとフルタイムがオッズ比1.87(95%CI:1.18~2.97,p<0.01)でした。また、子ども1人を基準とすると2人以上ではオッズ比0.35(95%CI:0.19~0.64,p<0.01)でした。「予防接種の困難感がある」では、フルタイム以外を基準とするとフルタイムのオッズ比1.69(95%CI:1.19~2.40,p<0.01)であり、その内容は、「種類・回数が多い」がフルタイム、パートタイムでは最も多く、「経済的負担がある」が自営業、専業主婦で多かったです。また、子どもの疾患なしを基準とすると疾患ありのオッズ比1.76(95%CI:1.06~2.93,p<0.05)であり、その内容は、「種類・回数が多い」が最も多かったです。「同時接種を知っている」は、子どもの疾患ありのオッズ比2.78(95%CI:1.24~6.25,p<0.05)でした(表2)。

結果の画像2

 同時接種に対する保護者の認識では、同時接種を行う理由は「かかりつけ医に勧められた」155名(35.0%)が最も多く、「通院回数が減る」121名(27.3%)などでした。一方、同時接種をしない理由は「漠然とした不安がある」50名(23.8%)、「安全性が確立されていない」49名(23.3%)でした。同時接種を行う際の留意点は、「かかりつけ医の判断に任せる」266名(63.6%)が最も多く、情報源は「病院等での説明」403名(60.6%)が最も多かったです。

考察

 今回の調査では、ほぼ全員の保護者が子どもに定期接種を受けさせていましたが、任意接種を受けさせていると答えた保護者は8割強でした。また、任意接種の接種状況や予防接種に対する困難感は、保護者の職業や子どもの人数、子どもの疾患の有無に影響されていることが明らかとなりました。同時接種は、約8割強の保護者に認識されており、同時接種を実施した又は実施する予定ありは7割でしたが、不安を持つ保護者など3割弱は意識的に実施していないことが明らかとなりました。保護者が同時接種を行う理由として医師に勧められたが最も多いことや、実施時の留意点においても医師の判断に任せるという回答が多く、同時接種に対する保護者の意識は、医師の判断に影響されていると考えます。
 同時接種について十分な説明を希望する保護者が多く、医師や看護職は、保護者の不安を受け止め、子どもたちにとって有益な選択ができるように保護者をサポートする必要があります。今後、医師や看護職は、同時接種のメリットやデメリットについて、保護者に十分な説明を行い、保護者の意思で接種方法を選択できるように支援することが重要であると考えます。

本研究は、第62回日本小児保健協会学術集会(2015)にて発表させていただきました。また、小児保健研究76(4) p328–p336,2017に掲載された論文の一部です。