大学紹介

妊娠期に飛来した黄砂が生まれた子どもの雄性生殖機能に与える影響

更新日:2018年11月2日 ページ番号:0000481

 

生体反応学研究室 吉田成一

はじめに

 1970年代から現在までに、男性の精子数が半分になっているということが最近明らかにされています。私たちの研究室では、大気汚染物質がマウスの精子数を減らすことを明らかにしてきました。
 黄砂の吸入により、アレルギー性の喘息や鼻炎症状の悪化、呼吸器疾患や循環器疾患に起因する入院患者数や死亡率の増加などが生じるとされています。大気汚染が原因で、男性の生殖機能の悪化することが明らかにされており、さらに、妊娠中の大気環境に起因する出生後の男性生殖機能の悪化も明らかにされています。しかし、妊娠中の母親が大気汚染物質の一つである黄砂を吸入した場合、出生した子ども(男児)の生殖機能にどのような健康影響が生じるか現時点では明らかにされていません。そこで、黄砂の胎児期曝露(妊娠期の曝露)が生まれた男児の生殖機能にどのような影響が生じるかについて、実験動物を用いて調べましたので、その研究について紹介します。

研究方法

 妊娠しているマウスに北九州で採取した黄砂(黄砂観測日に採取した大気粉じん)を気管から肺に注入しました。そのマウスから産まれた仔マウスと黄砂の注入を行っていない妊娠マウスから産まれた仔マウスそれぞれの生殖機能に関する影響を評価しました。

結果と考察

 母マウスの妊娠期(仔マウスの胎仔期)に黄砂の影響を受けて生まれた仔マウスは、黄砂の影響を受けずに生まれた仔マウスと比較して、雄の仔マウスの数が減りました(表1)。また、生まれた雄の仔マウスが5週齢(人の小学生相当)になると、黄砂の影響を受けて生まれた仔マウスの精巣重量が低下しましたが、10週齢(人の高校生相当)では精巣重量は黄砂の影響を受けずに生まれた仔マウスと同程度になりました。さらに、5週齢と10週齢の仔マウスともに精巣が持つ精子を作る能力を評価すると、胎仔期に黄砂の影響を受けると精子を作る能力が低下していると言うことがわかりました(図1)。
 妊娠期に母マウスが黄砂を吸入すると、生まれてくる雄の子どもの数が減ること、出生した雄の仔マウスの雄性生殖器である精巣の発達が一時的に遅れること、精子を作る能力が低下することがわかりました。
 これらのことは、妊娠している母親が黄砂を吸い込んでしまうと、生まれてきた男児の精子数が低下してしまう可能性を示しています。この研究は、本研究室の卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。

結果と考察の画像1

結果と考察の画像2