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家族介護者が認知症カフェを利用するために必要とする情報とその入手手段-認知症カフェ発展に向けて-

更新日:2019年3月25日 ページ番号:0000485

 

成人・老年看護学研究室(NPコース) 甲斐博美

はじめに

 認知症高齢者の介護家族は、介護を始めてから生活のしづらさを感じていることが明らかとなっており、認知症高齢者を介護する家族に対する家族支援体制の必要性が高まっています。2015年に新オレンジプラン策定後、家族の暮らしや人生を充実させるものとなるために認知症カフェの設置が全国的に広まっていますが、イメージや知識が乏しいために認知症カフェの参加につながらず、認知症カフェの発展を阻んでいる現状があります(増井、佐藤ら、2015)。
 そこで本研究では、認知症高齢者の家族介護者がカフェを利用しやすくなるために必要な情報とその入手手段を明らかにすることを目的とし、今後の認知症カフェ発展に貢献することを目指しました。

研究方法

 A県の認知症カフェを利用したことがある認知症高齢者の家族介護者9名を対象とし、半構造化面接を実施しました。質問内容は、(1)家族介護者の実際の認知症カフェに関する情報入手手段、(2)認知症カフェを利用するために求められる入手手段、(3)認知症カフェを利用するために必要とする情報とし、文脈が示す本質について読み込み、逐語録から家族介護者が認知症カフェを利用するために必要としている情報と今後あるとよい入手手段を抽出しました。本研究は、大分県立看護科学大学倫理安全委員会の承認を受けて実施しました。

結果と考察

 対象とした家族介護者の平均年齢は64.8歳であり、男性2名女性7名でした。介護歴は1年~9年であり、3年未満が6名、3年以上が3名でした。認知症カフェを知ったきっかけとしての実際の情報の入手手段については、多くの対象者が認知症に関する専門職の方々から情報を得ていました(表1)。その結果から認知症に係る専門職が認知症カフェと家族介護者をつなげる重要な役割であることが示唆されました。

結果と考察の画像

 今後、認知症カフェを利用するために求められる入手手段は、回覧版、折り込みチラシ、張り紙・看板、新聞・市報であり、専門職とかわることが少ない家族介護者にとっても、どの世代の家族介護者でも日常において気軽に認知症カフェの情報が入手できるような場所における媒体の必要性が示唆されました。
 また、家族介護者の年代によって、情報収集は新聞やインターネット利用の差があることから年齢層に合った広告媒体の必要性も明らかとなりました。
 また、家族介護者が認知症カフェを利用するために必要とする情報として、《運営方針》、《サロンと認知症カフェの違い》、《交流の場であるということ》、《一つのカフェだけでなく、他のカフェも利用して良いのかということ》、《認知症の人に対応できる専門職がいるということ》、《参加費用》でなどの開催に関する基本的な情報、また、具体的活動内容として、《開催日当日の具体的な流れ・活動プログラム》、《開店頻度・時間》、《カフェ参加者の概要》、《カフェ利用者の経験談》でした。更に、《雰囲気》、《施設のしくみ・安全面について》、《駐車場・バス送迎の有無》、《アクセス方法》、《認知症カフェの周囲の建造物・立地》という、認知症カフェ開催地の周囲環境に関する情報を必要としていることが明らかになりました。
 家族介護者の介護歴によって知りたいと思う認知症カフェの情報を分析してみると、3年以下と3年以上で求めている情報が異なることが明らかとなりました。介護歴3年以下の家族介護者は認知症の人が認知症カフェを楽しみ、受け入れられるか、通い続けられるのかどうかという認知症の人(当事者)に対する情報を必要としていました。
 一方、介護歴3年以上の家族介護者は、家族介護者が認知症の人の送迎が可能であるかどうかという《開催頻度・時間》、家族介護者が周囲の参加者の様子を気にせずに落ち着いてカフェで過ごすことができるかどうかの情報として《参加者の概要》、家族介護者が認知症カフェを選ぶ際に生の声を聞くことで認知症カフェが家族介護者にとって適しているかどうか判断できる情報として《利用者の経験談》という、一度きりではなく、安心して通い続けることができるかどうかとい情報を必要としていました。
 安心して気軽に認知症カフェを利用するためには、特徴をイメージがしやすい開催状況の基本情報、経験談や活動プログラムを含めた情報が必要です。認知症カフェについての情報が専門職から発信されるだけでなく、日常で入手しやすい情報発信を検討する必要があるといえます。また、家族介護者の介護歴によって重視する情報やそのニーズは異なることから、どの介護歴における家族介護者でも安心して通えるように、これらの違いを理解したうえで、工夫した情報が必要であると考えました。
 本研究が、認知症の方々や介護するご家族の生活の充実につながり、認知症カフェの発展に貢献できると幸いです。

 本研究の実施にあたり、ご協力いただいた皆様に心より御礼申し上げます。尚、この研究は本研究室の卒論生と共同で行った研究の一部を紹介しています。

参考文献

公益社団法人認知症の人と家族の会(2013)、認知症カフェのあり方と運営に関する調査研究事業報告書、http://www.alzheimer.or.jp/pdf/cafe-web.pdf

増井玲子、佐藤友美、吉田留美、中西敏子、川野京子、帆秋孝幸、介護老人保健施設 健寿荘(2015)、認知症の人を介護する家族支援としての認知症カフェの意義、認知症ケア事例ジャーナル、(1882-7993)8巻3号、209-218

佐藤 敏子(上武大学 看護学部)、荒井 淑子(2008)、認知症高齢者の家族介護者のQOLに関する文献検討、上武大学看護学部紀要(1880-747X)、4巻、35-40