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授乳期女性のエクオール産生能および産後1か月と3~4か月の脂質および骨代謝マーカーの推移に関する研究

更新日:2019年7月2日 ページ番号:0000489

 助産学研究室 梅野貴恵

はじめに

 近年、エストロゲン作用を示すエクオールが注目され、更年期女性の糖・脂質代謝や骨密度、更年期症状の改善が期待されています。エクオールは、食事として摂取した豆腐や納豆などに含まれる大豆イソフラボンのダイジンが、腸内細菌によって代謝されてつくられるものです。エクオールはエストロゲンと似た作用をするとされています。しかし、大豆食品をとればすべての人がエクオールを作れるわけではなく、欧米人は30%程度、子どもの頃から大豆食品を多くとっている日本人は、50%の人がエクオールをつくれる(麻生2012)といわれています。筆者の調査では、46~59歳の閉経後女性のエクオール産生者は43.5%で、若年者ほどエクオール産生者は減少しているとも言われています。この閉経後女性のうち、1年以上の授乳経験者の総コレステロール、中性脂肪などの脂質データ、骨代謝マーカーや更年期症状は基準値の範囲内でした。また、授乳期女性のエストロゲンは、閉経後と同程度で、顔がほてるなどの更年期類似症状もみられたことから、授乳経験がその後の女性自身の心身に何らかの影響を及ぼしていると推測しています。そのため、授乳期以降の健康状態を維持促進することはこれからの長寿時代に重要だと考えます。しかし、若年者をはじめ授乳期女性のエクオール産生能や脂質・骨代謝マーカーは明らかにされていないことから、本研究ではエクオール産生能と授乳期女性の産後の脂質プロフィール、骨代謝マーカーの実態を把握することを目的としました。

研究方法

 妊娠36週以降の正常経過の妊婦で、研究に同意の得られた11名をリクルートしました。出産までに尿中エクオール産生能を調査し、産後1か月健診時と産後3~4か月時に、採血を行い、血中総コレステロール(TC)、低密度リポタンパク-コレステロール(LDL-C)、トリグリセリド(TG)、P1NP、NTX等を調査しました。データの解析はSPSSver25を用いて記述統計、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。有意水準は、5%以下としました。本研究は大分県立看護科学大学研究倫理・安全委員会の承認(17-88)を得て実施しました。

結果

 11名のうち1名が途中で辞退し、10名を解析しました。10名の平均年齢は32.0±4.4歳、全員経産婦、正期産、経腟分娩で会陰切開など医療介入は実施されていません。エクオール産生者は4名(40.0%)でした。産後1か月と3~4か月を比べると、TCは1か月に221.4±28.4mg/dlで基準値を超えており、3~4か月には192.4±26.3mg/dlと有意に低下していました(p=0.005)。LDL-Cは1か月に130.5±25.6mg/dlであり、3~4か月には104.5±17.8mg/dlと有意に低下していました(p=0.005)。TGは1か月に102.7±77.0mg/dl、3~4か月には55.3±27.3mg/dlと有意に低下していました(p=0.038)。P1NPは1か月の61.8±26.8ng/mLから3~4か月には95.5±35.7ng/mLと有意に上昇しており(p=0.005)基準値を超えていました(図1)。NTXは1か月に15.8±3.6nMBCE/Lで、3~4か月では19.3±4.3nMBCE/Lと有意に上昇し基準値を超えていました(p=0.007)(図2)。3~4か月のNTXは、エクオール産生者(n=4)の方が、非産生者(n=6)に比べて低値でした(p=0.01)(図3)。

結果の画像1結果の画像2
結果の画像3

考察

 エクオール産生能は40%で、50歳代以上の女性と比べると若年者は、低下しているといえます。これは、日本人独特の食習慣である大豆摂取量が幼少期から減少しているためと推察されます。妊娠・出産前の若年者も含めた大豆摂取習慣を広めていく必要があります。
 産後1か月時のTCやLDL-Cが基準値より高値なのは、分娩直後のエストラジオール低下により代償的に上昇したものと考えられ、3~4か月時の値の低下は、母乳育児による脂質消費の促進と内分泌状態のダイナミックな変化に対する身体の適応反応ではないかと推察されます。骨代謝マーカーは、エストラジオールの低下と授乳により骨吸収・骨形成の骨代謝回転が促進されているためと考えられます。少数ではあるものの、エクオール産生者の3~4か月のNTXはあまり上昇していないことからエクオール産生者は早期に骨吸収が回復している可能性も考えられます。産後3か月では骨吸収が緩徐になり骨形成が上回る(根本2000)との報告や離乳後に骨密度は回復する(中山2015)との報告はみられるものの、離乳後まで長期にわたる間の骨代謝マーカーの推移は明らかになっていないため、さらに長期間の推移をみていく必要があると考えます。これらのことから、授乳期における脂質プロフィールや骨代謝マーカーのダイナミックな変動が、将来の脂質代謝や骨代謝に何らかの良い作用を及ぼしていることは示唆されました。

まとめ

 出産前女性のエクオール産生能は40%で、授乳期女性の脂質代謝、骨代謝はエストロゲン低下と授乳により、基準値を超えるなどの変化をしていました。

謝辞

 本研究は、第33回日本助産学会学術集会で発表した一部をご紹介させていただきました。本研究の実施にあたり、ご理解とご協力を賜りました助産師の皆様、快く調査にご協力くださったお母様方に心より感謝申し上げます。

引用文献

  • 麻生武志、内山成人.ウィメンズヘルスケアにおけるサプリメント;大豆イソフラボン代謝産物エクオールの役割.日本女性医学学会雑誌、20(2):313-332.2012.
  • 根本玲子.産褥期の骨密度変化に関する研究.日本産科婦人科学会雑誌、52(1):19-23.
  • 中山聡一郎、安井敏行、苛原稔.妊娠・授乳とpeak bone mass.最新女性医療、2(3):137-141.