大学紹介

産科施設における小児期予防接種教育の実態

更新日:2022年6月2日 ページ番号:0004913

小児看護学研究室 足立 綾​<外部リンク>

緒言

 近年、小児期の予防接種スケジュールは、対象疾患が拡充され過密化、複雑化しています。疾患や感染症から子どもたちを守るためには、予防接種が確実に実施されることが前提となりますが、わが国では、子どもの予防接種の決定は保護者に委ねられています。現在、保護者に対し、子どもの予防接種の必要性や安全性などの予防接種教育を「いつ・どこで・誰が」行うのか明確にされていません。本研究は、全国の産科施設において妊産婦に対して行う小児期の予防接種教育の実態を明らかにすることを目的としました。

方法

 調査は、無記名自記式質問紙法で実施し、対象者は全国の分娩取り扱い施設に勤務する看護管理者500名としました。調査項目は、施設の属性(所属施設、1ヶ月の分娩件数、予防接種・同時接種の実施有無、予防接種の管理・説明者、妊娠期・産褥期の予防接種教育の実施状況など)17項目、自由記述の合計25項目としました。施設の属性と妊娠期および産褥期の予防接種教育は記述統計を行い、施設の属性と予防接種教育の関連は、χ二乗検定を行いました。本研究は本学の研究倫理安全委員会の承認を得て実施しており、開示すべき利益相反はありません。

結果

 調査用紙は500部を配布、115部(23.0%)の回収が得られ、その内113部を分析しました。小児期の予防接種は、55施設(48.7%)で実施されており、予防接種教育の実施時期は妊娠期10施設(8.8%)、産褥期90施設(80.4%)でした。説明内容は妊娠期「予防接種の必要性」8施設(80.0%)が最も多く、妊娠期に予防接種教育を行わない理由は「出産後に説明する」、「妊娠期に行う必要性がない」等でした。産褥期に実施している説明は「定期接種の種類やスケジュール」74施設(82.2%)が多く、予防接種教育を行わない理由は「小児科に任せている」、「自治体に任せている」が挙げられました。施設の属性と妊娠期および産褥期の予防接種教育の実施状況の関連では、1ヶ月の分娩件数が60件以上の施設では、妊娠期に予防接種教育が実施されていました(p<0.05)。

考察

 今回の研究で、妊娠期に予防接種教育を実施している施設は113施設の内1割以下でしたが、産褥期には8割の施設が実施していました。教育を実施している施設では、妊娠期には予防接種の必要性など導入を、そして産褥期には具体的な受療行動を促す内容を教育していました。予防接種教育を実施しない理由として、自治体や小児科に任せているという認識の回答も多かったです。産科施設では妊娠期から妊婦と関わることができ、出産前からの情報提供や、ペリネイタルビジットを活用し小児科へ繋げることが可能となります。産科施設の特性を活かした妊娠期からの予防接種教育の体制整備が課題であると考えます。今後、保護者に関わる産科・小児科・自治体の医療職者がそれぞれの介入の機会を活かして、繰り返し予防接種教育を行うことにより、保護者の理解を促す支援につながることが期待されます。

 本研究は、本研究室の卒論生とともに行った研究の一部です。また、本研究は、母性衛生(62(4), 845-852, 2022)に掲載されており、上記はその一部を抜粋したものです。