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座面高と着座面の角度が立ち上がり動作の筋活動に与える影響

更新日:2020年3月4日 ページ番号:0000497

成人・老年看護学研究室 佐藤 栄治<外部リンク>

はじめに

 日本国の65歳以上の人口は、2019年9月時点で3,000万人を超え、国民の約4人に1人が高齢者となっており、諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しています。それに伴い、介護の需要が増加し、各種の車いすも病院や介護施設だけでなく、空港や商業施設等、多方面で利用されています。移乗する際の立ち上がり動作(Sit to stand以下、STS)は生活の質を左右する因子として重要な課題として認識されており、移乗する際のSTSの容易性は、筋活動に対する負担の軽減につながります。これまでの研究では、座面高と着座面の角度(以下、座面角)がSTSに影響を与える可能性があることが報告されていますが、別々に研究されており、評価指標も統一されていませんでした。よって、本研究は、座面高と座面角の組み合わせがSTSにどのような影響を及ぼすか、筋活動を評価指標として検証することを目的としました。

研究方法

 12人の健常成人男性(Age±SD:24.6±3.4)を対象にSTS時の筋活動を表面筋電図計(スポーツセンシング社製)で測定しました。被験筋は、STSに重要な働きをしていると報告されている外側広筋、大腿直筋、内側広筋そして前脛骨筋の4筋としました。座面高は対象者の下腿長を基準とし、低座面(基準-5cm)、中座面(基準)、高座面(基準+5cm)の3パターン、座面角は前傾5度、水平、後傾5度の3パターンを組み合わせた計9パターンの椅子を準備しました。
 筋の最大随意収縮を基準とし、STSの筋活動を標準化した値である%MVCを従属変数、座面高と座面角を実験変数とし、二元配置分散分析を行いました。有意な主効果あるいは交互作用が認められた場合は、事後検定としてBonferroni法を用いて解析しました。なお、有意水準は5%未満としました。

結果

 4つの筋群すべてにおいて、座面高の主効果を認め、座面高を5cm高くすることで%MVCが有意に小さくなりました。大腿直筋において、座面角の主効果を認め、前傾は後傾より%MVCが小さくなりました(大腿直筋の数値を表1に示します)。

結果の画像

考察

 座面高において、各筋群とも有意差が認められたことから、高座面の椅子は筋活動が小さくなり、低座面の椅子は筋活動が大きくなること、5cm単位の調整で筋活動に影響を及ぼすことがわかりました。座面角においては、大腿直筋のみ有意差が認められたため、座面角を前傾させることで、離殿時までの重心の前方移動に影響をあたえる大腿直筋への負荷を軽減させることが示唆されました。
 STSは人体の複雑なバイオメカニクスによってなされている運動であるため、今後は体幹前傾角度や発声が筋活動にどのように影響するのかについても詳細な検討を行っていきたいと考えています。

謝辞:本研究は、看護理工学会誌2019年6巻1号に掲載された一部をご紹介させていただきました。本研究の実施にあたり、ご理解とご協力を賜りました皆様に心より感謝申し上げます。