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グラム陽性菌の細胞壁構成成分ペプチドグリカンはアレルギー性喘息を悪化させる

更新日:2022年7月11日 ページ番号:0005026

生体反応学研究室 定金香里<外部リンク>

はじめに

 黄砂は気候や生態系などに悪影響を及ぼすだけでなく、私たちの健康にも被害を与えることが近年、わかってきました。よく知られているのが、黄砂の季節に、喘息や花粉症などの呼吸器疾患が悪化することです。なぜ、このような現象が起こるのでしょうか?当研究室では、その謎を明らかにするため、黄砂を用いた動物実験を行ってきました。その結果、黄砂は単なる砂漠から飛んできた砂、ではなく、土壌中や大気中の微生物、工場の煤煙由来と考えられる化学物質を付着しており、それらが喘息や花粉症などのアレルギーを悪化させる役割を担っていたのです。
 今回、ご紹介するのは、細菌が黄砂によるアレルギー性喘息の悪化に関わっていることを調べた動物実験の結果です。以前の研究で、黄砂に付着している微生物の量が多いほどマウスのアレルギー性喘息の病態が悪化することが明らかになっていました[1]。そこで、本研究では、グラム陽性菌という種類の細菌の細胞壁成分であるペプチドグリカンが増悪に関わっているのではないかという仮説を検証しました。

方法

 マウスの肺に卵白アルブミン(アレルギーを引き起こすアレルゲンとして働きます)、ペプチドグリカン、加熱黄砂(黄砂の砂の成分を加熱して微生物や化学物質などの付着物を除去したもので)を単独、または組み合わせて投与しました。2週間おきに4回、投与した後、アレルギー性喘息の病態を評価しました。​​

結果と考察

 アレルギー性喘息では、気管支肺胞洗浄液中の炎症細胞数が増加します。卵白アルブミン(OVA)のみを投与した群、OVAとペプチドグリカン(PGN)を組み合わせて投与した群、OVAと加熱黄砂(H-ASD)を組み合わせて投与した群、OVAとPGNとH-ASDの3種類を投与した群の4つを比較すると、OVAとPGNとH-ASDを投与した群の炎症細胞、特に好酸球が顕著に増加していました(図1)。好酸球は喘息の病態を形成するキーファクターの一つです。肺の組織を観察したところ、やはり、OVAとPGNとH-ASDの3種類を投与した群の肺の病態が最も重症化していました。また、気管支肺胞洗浄液中のIL-5、エオタキシンといった炎症性タンパク量もOVA、PGN、H-ASDを投与した群で最も高い値を示していました(図2)。これらの炎症性タンパクは好酸球を呼び寄せ、炎症を引き起こすことが知られています。OVAとPGNの組み合わせは、OVA単独と統計学的な有意差はありませんでした。OVAとH-ASDの組み合わせは、OVA単独やOVAとPGNの組み合わせよりも病態が悪化していましたが、OVAとPGNとH-ASDの組み合せには及びませんでした。​

総細胞数IL-5

 これらの結果から、アレルゲン(OVA)と細かい砂(H-ASD)を吸入するとアレルギーが悪化し、そこにグラム陽性菌の細胞壁成分(PGN)が加わると、より強く病態が悪化することがわかりました。
 アレルギー性喘息は、獲得免疫という、特定のアレルゲンを撃退する体の防御機能が働いて起こる疾患の一つです。一方、ペプチドグリカンは自然免疫という不特定の異物から体を守る生体反応を引き起こす物質として知られています。このことから、黄砂によるアレルギー性疾患の悪化にはこの二つの免疫応答が関わっていることが示唆されました。​
 この研究紹介は、学術誌に掲載されている結果[2]の一部を選び、再構成したものです。黄砂に含まれる微生物の細胞壁構成成分がアレルギー性喘息を悪化させることを検証した論文が他にもありますのでご参照ください[3,4,5]。​

引用文献

  1. He M et al., 2013. Effects of two Asian sand dusts transported from the dust source regions of Inner Mongolia and northeast China on murine lung eosinophilia. Toxicol Appl Pharmacol. 272(3):647–655.

  2. Sadakane K et al., 2022. Co-exposure of peptidoglycan and heat-inactivated Asian sand dust exacerbates ovalbumin-induced allergic airway inflammation in mice. Inhal Toxicol. In press.

  3. Ren Y et al., 2014. Enhancement of OVA- induced murine lung eosinophilia by co-exposure to contamination levels of LPS in Asian sand dust and heated dust. Allergy Asthma Clin Immunol. 10(1):30.

  4. Sadakane K et al., 2016. Co-exposure to zymosan A and heat-inactivated Asian sand dust exacerbates ovalbumin-induced murine lung eosinophilia. Allergy Asthma Clin Immunol. 12:48.

  5. Sadakane K et al., 2019. Effects of co-exposure of lipopolysaccharide and β-glucan (Zymosan A) in exacerbating murine allergic asthma associated with Asian sand dust. J Appl Toxicol. 39(4):672–684.