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修士課程保健師教育の意義と新人期から求められる能力に関する実態調査

更新日:2020年5月26日 ページ番号:0000505

地域看護学研究室 赤星琴美<外部リンク>

はじめに

 本学では、大学院修士課程における保健師教育を平成23年度から開始しました。日本初です。社会環境の変化に伴って保健師の役割が拡大し、専門性の強化が一層求められてきたという社会的なニーズが背景にあります。保健師は、「地域社会の健康づくりの組織者」として、現代社会で機能を発揮するためには、「健康課題に立ち向かうための研究力」「エビデンスに基づいて施策化する能力」が必要であり、その力量を付けるために、修士課程での教育が重要です。保健師教育を、看護師教育に上乗せすることにより、どのような能力が身に付くのかについて詳らかにすることは、修士課程における高度実践者養成の可能性を明示することにつながると考え、修士課程修了した修了生および大学院生に対してインタビュー調査を行い、修士課程の保健師教育の意義と新人期から求められる能力を分析することを目的ととしました。

方法

 本学を修了した修了生7名、および在学院生11名の計18名を対象に、インタビューガイドを用いて、講義・演習・実習内容や就職後生かされたこと等についてグループインタビューを実施しました。インタビューは対象者の許可を得てICレコーダーに録音し、逐語録を作成してデータとしました。

結果

 対象であった修了生は、県(1名)、市(5名)、連合会(1名)に所属していました。インタビュー内容を分析した結果、大学院修士課程で学ぶ意義として5つの《大カテゴリー》および18の【サブカテゴリー】が抽出されました。表1に結果を示します。
 《保健師としてのアイデンティティーの確立》では、大学院生は、3タイプの実習を行うことによって【何事も経験しないとわからない】と感じていました。1人が1施設に赴いて実習を行っており、【実習は全員違うから自分で考えなければいけない】、【根性・度胸がついた】と自覚し、「こなしていくうちに何が必要かわかってきた」と述べていました。また、演習や実習での先輩のアドバイスを【先輩の存在がありがたい】と受け止め、報告会での現場保健師との意見交換を【現場保健師とのつながり】ができたと感じていました。こうした先輩学生や現場保健師との交流によって【保健師として何を求めているのかわかるようになった】、【次につなげるための道筋を考える機会となった】と述べています。
 《保健師について言語化することの必要性の認識》では、講義・演習でのディスカッションや実習成果報告会の経験から【資料の可視化の重要性】、【成果をまとめる必要性】、【必要性を納得させる方法を知った】と述べていました。修了生は「虐待が考えられるケースを他の機関と一緒に訪問するが、保健師が思う危機感がうまく伝わらないのが悩み」と語り、他部署との連携やシステム化しようと努力していました。
 《正解のないことに立ち向かう力》として、【勉強は教えてもらうものではない】、【先輩の真似をしても違う】ことや【正解があることは間違いだったと途中で気づいた】と述べていました。
 一方で、《多重課題での忙しさ》として、科目数の多さと長期間の実習を行うことで、【精一杯でこなしてきた】状況があり、駆け抜けた感があると述べていました。
 ≪不足している講義・演習≫では、今後の修士課程保健師教育に取り込んでほしいこととして、【統計・疫学の強化】や【事業計画と予算との連動】(予算の仕組みを理解し、根拠に基づき予算案を作成する)といった演習、【幼児期からの発達・発育】の演習、さらには、3つの実習で提言したことを実行するための【計画立案】の演習も必要であるという意見が聞かれました。

大学院修士課程で学ぶ意義の画像

考察

 大学院生・修了生は、長期間の実習で現場での手厚い指導をうけ、その学びを繰り返し分析統合しプレゼンテーションする経験により、保健師としての自らを相対化することにより、保健師としてのアイデンティティーが育まれ確立できたと考えられました。また、教員や先輩、実習における現場の保健師との豊富なかかわりと学生とのディスカッションを通して、保健師について言語化し説明する能力、説得する能力を身につけることができたと考えられました。さらに、保健師課程は修士課程と保健師指定規則の必要単位数により多くの学修時間を必要とします。長期間の実習や学修のためには自らのタイムマネジメントが重要になり、多重課題をやり遂げる力が求められます。このような環境の中で忙しさに対処する能力を獲得できていると考えられました。
 長期間の豊富な実習からの学びが充実していた。実習では現場の手厚い指導から良い経験をしたことが院生の満足感につながっていた。現場での豊富な経験は、保健師として現実のひっ迫した健康課題に向き合い、正解がないことに切り込んでいく覚悟や能力につながると考えられました。

 本研究は学内研究費助成金(2018~2019年度 先端研究)を受けて行ったものです。