大学紹介

看護系大学における教養教育~文献、制度の変遷による検討~

更新日:2022年10月17日 ページ番号:0005271

成人・老年看護学研究室 中釜 英里佳​<外部リンク>

 1991年7月大学設置基準が大綱化されました。大綱化以降の大学教育改革は、専門教育を中心とした学部教育の編成へと進み、結果として教養教育が軽視される風潮を生んだ(林,2003)と言われています。医療など専門職業との結び付きの強い学部では専門教育の早期化や高度化が生じ(中央教育審議会,2008)、学生の学びの幅を早期から狭めてしまうことも懸念されています。
 大綱化以降、少子化の進行に伴い、経営が困難になり存続が不可能になる大学もある中(中央審議会,2005)、増加し続けているのが看護系大学です。看護系大学の増加は、大綱化から程ない1992年の「看護師等の人材確保の促進に関する法律」、「看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」が示されたこと、「地域福祉推進特別対策事業及び・短期大学である看護婦等の養成施設の整備に係る事業の指定について」による財政面の措置が講じられたことによるものとされています(上畠,2017)。

制度の変遷

 看護師養成教育は、「保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下指定規則)」のもとで展開されます。指定規則は、2022年に改訂され、現在計102単位の履修が必要です。そのような中、看護系大学は、学士課程の中で看護師養成教育を行っていますので、大学設置基準に示されている前提に立ち、指定規則の適用及び運用をしていくことが必要です(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2019)。大学設置基準に示されている、学士課程の卒業要件は124単位以上の修得です。そのうち看護系大学では指定規則の102単位修得が必要であり、専門教育以外で教養教育の行われる余地は、現行で22単位となります。
 学士課程における看護学教育では、教養教育が基盤に位置づけられた教育課程である必要性が示されています(看護学教育の在り方に関する検討会,2004)。また特定の専門知識・技術の教育にとどまらない学士としての批判的・創造的思考力の醸成、専門職としての高い倫理性、職業アイデンティティの確立、研究や臨床で求められる情報収集能力、読解力の養成、対人関係形成能力の基礎となる、自らをよく知り、自己を深く振り返る内省、自己洞察能力の強化も求められています(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2017)。
 しかし、看護系大学において専門教育の比重は大きいと考えられます。看護系大学において、卒業要件単位は平均126.8 単位のうち、123.8単位分が指定規則の教育内容に該当する科目であった(大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会,2019)という報告があります。
 杉森・舟島(2017)は、看護師養成が一般教育を重視してこなかったため、育成された看護師は、病院の中にだけしか生きられない職業人となり、仕事を離れた社会人としては、自己の内面生活を考えることが少ない傾向を持っていると述べています。また看護師養成における一般教育の欠落が、専門性を事態の全体構造にいかに適合させるのかに長い間考え及ばなかったことにつながっているなどと述べ(杉森・舟島,2017)、看護師養成において一般教育が軽んじられてきた現状や、そのことによる弊害を述べています。看護師養成教育の充実・強化の流れの中で、看護師養成教育のための専門科目が優先され、その基盤となる人間的素養を養成する教養教育について検討されない(大見・河野・酒井・河津他,2012)との指摘もあります。
 文献や制度の変遷からは、看護師養成教育のための専門科目が優先され、その基盤となる人間的素養を養成する教養教育については、軽視される傾向にあり、検討されていないのではないかと推測されます。

指定規則

<引用文献>

林正人(2003).大学設置基準大綱化以降の共通(教養)教育のかかえる問題.大阪工業大学紀要人文社会編,48(2),13-26.

中央教育審議会(2005年2月28日).我が国の高等教育の将来像(答申)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05013101.htm

中央教育審議会(2008年12月24日).学士課程教育の構築に向けて(答申).

http://www. mext. go. jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1217067. html

上畠洋佑(2017).日本の私立看護系大学に関する研究-文部科学省政策に着目した私立看護系大学増加要因分析の知見と限界-.早稲田大学大学院文学研究科紀要.62,99-111.

大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会(2017年10月31日).看護学教育モデル・コア・カリキュラム ~「学士課程においてコアとなる看護実践能力」の修得を目指した学修目標.https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/078/gaiyou/__icsFiles/afieldfile/2017/10/31/1397885_1.pdf

大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会(2019年12月25日).大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会第一次報告大学における看護系人材養成の充実に向けた保健師助産師看護師学校養成所指定規則の適用に関する課題と対応策.https://www.mext.go.jp/content/20200114-mxt_igaku-00126_2.pdf

看護学教育の在り方に関する検討会(2004年2月26日)看護実践能力育成の充実に向けた大学卒業時の到達目標(看護学教育の在り方に関する検討会報告).https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/018-15/toushin/04032601.htm

文部科学省・厚生労働省(2020).保健師助産師看護師学校養成所指定規則の一部を改正する省令の公布について(通知).https://www.mext.go.jp/content/20201105-mxt_igaku-000006024_1.pdf

大見サキエ,河野由美,酒井郁子,河津芳子,中村鈴子,岡光京子,新谷恵子,城生弘美,谷口好美,坪見利香(2012).看護系大学における教養教育に関する研究:質問紙調査による教養教育に対する教員の認識.日本看護学教育学会誌,22(2),41-53.

杉森みど里,舟島なをみ(2017).看護教育学.107,東京都:医学書院.