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シラバスからみる看護系大学における情報倫理に関連する教育の現状

更新日:2022年11月14日 ページ番号:0005354

健康情報科学研究室 品川佳満<外部リンク>

はじめに

 IoT,AIといったデジタル技術が活躍するSociety5.0時代において,ICTの活用能力は,情報の持つ有用性を引き出すアクセルとしての役割を持ちます.医療分野においても,情報化が著しく進展しており,現場の様々な場面でICTが活用されています.そのため,現場に出る前の看護基礎教育からICT活用能力を強化することが求められています.しかし,単にアクセルを踏む教育だけでは,情報漏えいなどの事故を引き起こしてしまう危険性があるので,患者の機微な個人情報を取り扱う看護職者には,正しく情報を取り扱うためのブレーキに相当する情報倫理教育も必要です.
 本研究では,シラバスの分析を通して現在看護系大学で行われている情報倫理に関連する内容を取り扱っている科目や,その内容の現状を明らかにすることを目的としました.​

方法

 日本看護系大学協議会のサイトに公開されている会員校から70大学のシラバスを対象に,情報倫理に関連するキーワードが含まれる科目を抽出しました.なお,看護実習に関する科目は,現場と同等の実践の場と考え,本研究では分析対象から除外しました.
 抽出した科目の「授業計画」の項目に記載されている各単元の記述内容から,情報倫理に関連する構成要素(以下,ラベル)を抽出し,科目の整理およびラベルの出現数について集計しました.

結果

 70大学のシラバスから延べ418の科目が抽出されました.抽出した科目から21のラベルが抽出され,ラベルの総出現数は694でした.出現数が3以上のラベルを含む科目群(以下【】で表記)とラベル(以下,《》で表記)について整理した結果を図に示します. 
 一般教養・基礎科目のなかでは,【情報学】で《セキュリティ》,著作権などの《知的財産》,WebやSNS利用に関する《情報発信・交換》,《個人情報保護》など情報倫理に関連する内容が幅広く取り扱われていました.社会科学系の【法学・日本国憲法,社会学】では,《プライバシー》《契約(同意)》《個人情報保護》, 人文科学系の【倫理学/生命倫理学】では《研究倫理》《プライバシー》などが取り扱われていました.
 専門基礎科目では,【関係法規】で《個人情報保護》《守秘義務》,【社会保障・保健医療福祉行政】科目で《個人情報保護》《情報開示・公開》,【公衆衛生・疫学】で《研究倫理》が取り扱われていました.
 専門科目では,【基礎看護】系科目で《倫理綱領》《守秘義務》,その他の専門領域【精神・小児・成人・在宅】において《個人情報保護》などが取り扱われていました.また,【看護倫理】で《倫理綱領》《守秘義務》,【看護(医療)情報学】では《個人情報保護》《セキュリティ》《情報管理》などが含まれていました.【卒業研究】では《研究倫理》が扱われていました.​

科目群

考察

 看護系大学において情報倫理に関係する内容は,一般教養・基礎科目の【情報学】だけでなく,他の一般教養科目から専門基礎,専門科目に至るまでの数多くの科目で取り扱われていることが明らかになりました.これは,看護職には,患者のプライバシーや個人情報,守秘義務といったことが強く関係していることや,看護研究を遂行するために必要な研究倫理の範囲に,データや個人情報の取扱い,盗用など,情報倫理に関連する内容が多く含まれていることが理由として考えられます.
 つまり,看護系大学では,ブレーキの役割を持つ情報倫理について,すでに多くの科目を通して学んでいる現状にあるといえます.しかし,現場で起きている情報漏えい事故の現状を考えると,情報倫理に関する正確な理解および,問題解決を行うための能力の十分な修得にまで至っていないと考えられます.
 この背景には,看護師にもっとも深く関係する「患者情報の取り扱い」が,各科目で扱われる際,「〇〇すべき」「〇〇してはならない」といった単にルールを覚えることだけが中心になっているからだと考えられます.時代とともに変化する情報技術や情報社会に対応していくためには,単にルールとして理解するだけでなく,一般教養科目である基礎学問から専門基礎/専門科目までの関係性を理解し,知識・技術の統合力を身につけることが必要であると考えています.​

おわりに

 筆者は「看護師・看護学生のための情報倫理学習支援サイト<外部リンク>」を開設し,現在医療機関で発生している漏えい事故などについて,紹介していますので,ぜひご覧ください.


 看護師・看護学生のための情報倫理学習支援サイト
 https://www.kango-jorin.com<外部リンク>