大学紹介

清拭素材が皮膚に及ぼす物理的刺激の影響

更新日:2022年12月7日 ページ番号:0005408

助産学研究室 樋口 幸<外部リンク>

はじめに

 赤ちゃんの皮膚トラブルは,将来のこどものアレルギー性疾患のリスク因子となることや,親の育児ストレス要因になることが分かっています。これまでの研究で,保湿剤の塗布によって皮膚バリア機能を良好に保つと,アトピー性皮膚炎の発症リスクを3割低下させることが報告され,スキンケアの実施率は80%を超えています。しかし現在も,新生児期の皮膚トラブルの発生率は約70%と高いことが問題視されています。
 皮膚トラブルの原因は様々ですが,赤ちゃんの皮膚の特徴として,大人と比べて角層が薄く敏感なうえに,発汗や排泄,よだれや食べこぼし等で水分や汚れとの接触機会が多くなってしまいます。そのため,皮膚を清潔に保つためには“拭き取る”ことが必要ですが,その行為自体が皮膚に刺激となり,皮膚バリア機能を低下させるリスクもあります。
 そこで本研究では,皮膚への刺激が少ない清拭素材を見つけることを目的に,動物(ヘアレスマウス)を用いた清拭実験を実施しましたのでご紹介します。​

方法

 清拭には,表面構造と柔らかさ(ヤング率)の異なる4種類の素材(綿ガーゼ,マイクロファイバータオル,不織布,ナイロンタオル)を選定しました。各清拭素材を用いて,ヘアレスマウスの背部を1日1回一定条件で2週間清拭し,皮膚への影響を評価しました。

結果と考察

 今回使用した清拭素材は,マイクロファイバー,不織布,綿ガーゼ,ナイロンの順に柔らかいという結果でした。反対に,糸が太く表面構造が編地(織られている)の素材は硬いことがわかりました。

清拭素材

 清拭素材と皮膚バリア機能との関連をみると,素材が柔らかいほど影響は少なく,硬い素材の綿ガーゼとナイロンタオルは皮膚バリア機能が有意に低下していました。

水分蒸散量

 さらに,皮膚表面の形状変化を顕微鏡で観察すると,不織布,綿ガーゼ,ナイロンタオルで角質の損傷や剥離ならびに体毛の断裂や脱毛も顕著に確認されました。​

表皮表面の形状

 ​これらの結果から,清拭素材の表面構造が柔らかさに関係しており,柔らかい素材ほど清拭による皮膚バリア機能への影響が少なく,皮膚表面へのダメージが少ないことが示唆されました。今回検証した4種類の中で最も低刺激な素材は,マイクロファイバータオルで次いで不織布であることが分かりました。

この研究紹介は,大学院生とともに実施した研究成果の一部を抜粋し,改変したものです。ご興味のある方は学術誌にも掲載されておりますのでご覧ください。
 ※「母性衛生」64巻1号(2023年4月) オンラインジャーナル​