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妊娠中の加熱式たばこの使用が生まれた子どもの雄性生殖系に与える影響

更新日:2023年4月3日 ページ番号:0005632

生体反応学研究室 吉田成一<外部リンク>

はじめに

 日本の出生数は2022年、80万人を割りました。1982年には150万人を超えていましたので、この40年で半減しました。要因はさまざまありますが、原因の一つに不妊があります。不妊のカップルは10組に1組と言われていますが、それよりもっと高いとも言われています。不妊は女性側に理由があって生じる場合もありますが、男性側に理由がある場合もあり、割合としては半々と言われています。男性側の理由としては、精子数が少ないことがあります。これまでに我々は、PM2.5や黄砂と言った大気汚染物質を妊娠中に曝露すると出生後の男性生殖機能の悪化についてマウスを使って明らかにしてきました。最近、紙巻きたばこを使用する人は減ってきましたが、加熱式たばこを使用する人は増えてきています。大気汚染物質も加熱式たばこも呼吸によって体内に取り込まれます。加熱式たばこを妊娠中に吸入した場合、出生した子ども(男児)の生殖機能にどのような健康影響が生じるか現時点では明らかにされていません。そこで、加熱式たばこの胎児期曝露(妊娠期の曝露)が生まれた男児の生殖機能にどのような影響が生じるかについて、実験動物を用いて調べましたので、その研究について紹介します。

研究方法

 妊娠しているマウスに加熱式たばこを1日に4スティック、妊娠中に二日間吸入させました。同じ条件で紙巻きたばこを1日に4本、2日間妊娠マウスに吸わせました。それらのマウスから産まれた雄の出生マウスとどちらのたばこも吸入させなかった妊娠マウスから産まれた雄の出生マウスそれぞれの生殖機能に関する影響を評価しました。

結果と考察

 母マウスの妊娠期(出生マウスの胎児期)に加熱式たばこの曝露し、生まれた雄の出生マウスは、加熱式たばこの曝露をされずに生まれたマウスと比較して、5週齢 (人では小学生に相当)では精子の数が減りました (図1)。紙巻きたばこを妊娠期に吸わせたマウスから産まれたマウスでは精子の数が減りませんでした。つまり、妊娠期にたばこを吸った場合、生まれてくるマウスへの影響としては紙巻きたばこより加熱式たばこによる影響のほうが強い場合があることを示しています。加熱式たばこの曝露によって5週齢で精子の数は減りましたが、15週齢 (人では成人に相当)ではたばこを吸わせなかった時と同じ程度になることはわかりました。精子は精巣という組織で作られますが、精巣の状態 (病理学的視点)を評価すると、胎児期に加熱式たばこを曝露されて生まれたマウスでは精巣の中にある精細管 (精子を作る場所)が障害を強く受けていることもわかりました (図2)。つまり、精巣の状態が悪くなったために、作られる精子の数が減ったという可能性があります。
 これらのことは、妊娠している母親が加熱式たばこを使うと、生まれてきた男児の精子数が低下してしまう可能性を示しています。この研究は、本研究室の卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。また、研究論文としてBiol. Pharm. Bull.という学術雑誌に掲載されています (Biol. Pharm. Bull. 43, 1687–1692 (2020):https://doi.org/10.1248/bpb.b20-00390)。

精子を作る能力への影響  精子を作る場所の状態