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DVD教材「看護師を対象とした災害時における黒エリアでの対応シミュレーション」の製作とその有用性

更新日:2023年4月27日 ページ番号:0005796

看護アセスメント学研究室 石田佳代子<外部リンク>

 災害現場において、トリアージ注1で「黒」(救命困難もしくは死亡)と区分された傷病者には「黒」のトリアージ・タグが付されます(以下、黒タグ者)。黒タグ者を収容する場所である「黒エリア」を担当する看護師には、黒タグ者への対応はもとより、その家族の心情に配慮することが望まれます。しかし、事前の準備もなく災害時の大混乱の中での円滑な対応は大変難しいと考えられます。「遺体関連業務は救援・支援業務の中でも最も過酷なものの1つ」であり、「支援者は、その業務を通じてトラウマティック・ストレスに曝される」とされています(重村ほか,2012年)。事前に黒エリアで起こり得ることを知っておくことで、受けるストレスの軽減に役立ち、また、黒エリアを担当する看護師の精神的な孤立を予防するための教材が必要と考えました。
 そこで、黒タグ者とその家族に対して、看護師としての望ましい対応をシミュレーションにより学ぶための看護師向けのDVD教材「看護師を対象とした災害時における黒エリアでの対応シミュレーション」を製作しました。製作したDVDにアンケートはがきを添付して、全国の災害拠点病院
注2と大分県の100床以上の病院などに配布し、回答者の職位や経験年数、本DVDの内容でよかった点(選択回答式)、利用機会について(選択回答式)、本DVDの視聴が役立つと思われる職種(選択回答式)、本DVDに対する意見、改善点などを尋ね、項目ごとに単純集計を行いました。視聴された96施設の方から回答を得ることができましたので、その結果を紹介します。
 回答者は「看護部長」が47.9%、「副看護部長」が24.0%、看護師長が17.7%、副看護師長と主任が各々5.2%でした。看護師としての経験年数(平均年数)は31.5年でした。施設については「地域災害拠点病院」が78.1%、基幹災害拠点病院が14.6%、災害拠点病院ではない施設が4.2%でした。内容でよかったのは、「家族対応における留意点」が87.5%、「ご遺体を前にした家族への対応」が83.3%でした(図1)。利用機会では「研修」が78.1%、「災害訓練」が38.5%でした(図2)。役立つと思われる他職種では、「医師」と「事務員」が各々54.2%、「看護学生」が39.6%でした(図3)。

本DVDで良かった点
 
どのような機会に利用したいと思うか

役立つと思われる職種

 自由記述では、「具体的な例があがっており、理解しやすかった」や「一連の流れにおける看護師の役割がよくわかりました」などの【わかりやすかった】という意見が多数ありました。また、「一連の流れがみられることによってイメージがつきやすい」や「リアルな映像と解説は実場面を容易に想像できるものと感じた」などの【イメージしやすかった】という意見も多数ありました。これらのほかにも「黒エリアについて対応教材が無かったので参考になった」や「DVDがあれば事前学習が容易になります」などの意見もありました。多様な対応例やHowToにつながる具体例があるとよい、などの要望もありました。
 視聴者の回答結果から、本DVDを用いたシミュレーションが一連の流れのイメージに有用であることが示唆されました。また、研修や訓練に活用でき、看護師以外の職種や看護学生にも役立つ可能性が示されました。
 ここに紹介した内容は、第28回日本災害医学会総会・学術集会(2023年3月)において発表したものです。本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)「災害時における「黒エリア」での対応に向けた実践モデル的教材の開発」(課題番号19K10778)の助成を受けて行いました。

注1:「トリアージ」とは(『南山堂 医学大辞典』の複数個所より抜粋)
 大災害などで短時間に多数の傷病者が発生したとき、急速に医療ニーズが高まるため、それらの傷病者を救護するために必要な人的・物的資源が不足する。このような状況下で最大多数の傷病者に最善の医療を施すために、これらの傷病者を重症度や緊急度にそって分別し、搬送順位あるいは治療順位を決定する行為をトリアージという。第一優先順位として、生命の危機的状況で、ただちに処置が必要な緊急治療群、第二順位として2~3時間処置を遅らせても悪化しない準緊急治療群、第三順位として自力歩行可能な軽症群、第四順位として死亡あるいは生存の可能性のない群の4種類に分別する方法が阪神・淡路大震災以降に国内で統一された。優先順序を示す色識別は、第1優先順位が赤色、第2優先順位は黄色、第3優先順位は緑色、第4優先順位は黒色と決められている。

注2:「災害拠点病院」とは(『南山堂 医学大辞典』より抜粋)
 災害時において、1)24時間緊急対応が可能な重篤救急患者の救命医療を行うための高度の診療機能、2)傷病者受入れおよび搬出を広域に行える機能、3)消防機関と連携した医療救護班の派遣体制や自己完結型の医療救護班の派遣機能、4)地域の医療機関への応急用医療資機材の貸出し機能、5)要員の訓練・研修機能を有する病院で、都道府県が指定するもの。各都道府県に1ヵ所の基幹拠点病院と各二次医療圏に1ヵ所ずつ地域拠点病院が指定されている。

引用文献
重村淳,谷川武,佐野信也,他:特集 支援者の支援―東日本大震災後の社会的課題― 災害支援者はなぜ傷つきやすいのか? ―東日本大震災後に考える支援者のメンタルヘルス―.精神神経学雑誌114(11):1267-1273,2012