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なぜ姫島村は健康寿命が長いのか?(その3) ― 家庭菜園について ―

更新日:2023年10月4日 ページ番号:0006232

健康運動学研究室 稲垣 敦<外部リンク>

姫島 2019年の調査で、大分県は健康寿命日本一(男性1位、女性4位)に輝きました。さて、あなたは何歳まで健康に生きられるのでしょうか?この答の90%は、あなたの生活習慣で決まります。しかし、それはある一つの決定的な生活習慣で決まるわけではなく、数多くの生活習慣が関わっています。地図
 大分県北部にある、盆踊りと車海老で有名な姫島には七不思議の伝説がありますが、八番目の不思議は健康寿命が長いことです。この理由を調べるため調査を行い、前回、前々回では、姫島村の高齢者の運動習慣や体力、ストレスに関する調査結果を紹介しました。今回は「家庭菜園」に注目しました。
 昼間、姫島村を歩いていると畑仕事をしている人々をたくさん見かけます。この方々は農作物を収穫して出荷している農業従事者ではなく、自分たちが食べ、親戚やご近所におすそ分けする分を家庭菜園でつくっています。ですから、畑もあまり広くはありません。また、サツマイモやタマネギ等をつくっています。
 調査については前回の報告を参考にして頂くとして、調査の結果、次のことがわかりました。

1. 畑仕事を月1回以上実施している者(農業従事者を除く)は男性59名(73.5%)、女性66名(84.6%)で、全国値より有意に高かった(図1)。

畑仕事の回数

2. 畑仕事を毎日実施している人(農業従事者を除く)は、男性16.9%、女性27.3%週5日以上は男性20.3%、女性40.9%、週3日以上は男性50.8%、女性77.3%で、全国値より有意に高かく、有意な性差(男<女)も認められた(図2)。

畑仕事の回数

3. 畑仕事の頻度との相関は、男性では、拡張期血圧r=-.23、女性では、拡張期血圧r=-.22、右上肢体脂肪率r=-.24、同左r=-.28、食べ物の好き嫌いの程度r=-.30、ストレスの程度r=-.25(以上、年齢で調整)、身長r=-.29、右上肢筋量r=.26、同左r=.33(以上、年齢と体重で調整)が有意であった(表1)。

畑仕事の頻度

 前回、前々回の報告で、姫島村の高齢者は歩行能力が優れており、1日の歩数が多く、身体活動時間が長く、ストレスが少ないことを報告しました。矢島ほか(2005)は、1日3時間以上農業に従事している高齢者では、男性の糖尿病、高尿酸血症、女性の高脂血治療者、男女の血中脂質等が有意に少ないことを報告しています。また、Van den Berg et al(2010)は、市民農園を利用する高齢者は、急な身体の不調の訴えや医師の診療頻度が低く、主観的健康感が良好、満足感が高く、孤独感が低いことを報告しています。夏川(2010)は、農作業をする高齢者では、運動機能、精神的状態、訪問・相談と外出の項目においてネガティブな回答が有意に少なかったことを報告しています。一方、松森ほか(2009) は、農業従事者は、身体活動量が高く、高血圧、糖尿病、高尿酸欠病、高脂血症の比率、血中脂質の値が低く、緊張・不安感、混乱(POMS)も低いことを報告しています。夏川(2012)も、ビニールハウスでの農作業で交感神経活動度(LF/HF)が低くなることを報告しています。
 これらのことを考慮すると、姫島村の長い健康寿命には、家庭菜園での畑仕事が関与している可能性が考えられます。畑仕事は生活習慣病予防効果のある有酸素運動であり、介護予防に有効な力仕事も含まれており、ストレス低減効果もあると考えられるからです。なお、家庭菜園の実施が野菜摂取量を増やしている等の明確なエビデンスは得られていないため、家庭菜園の食習慣への影響は今後の課題です。 
 姫島は、盆踊り、七不思議、車海老料理、アサギマダラ、温泉、海水浴場、ジオパーク、黒曜石、トライアスロン等の観光資源も豊富です。是非一度、姫島を訪ねてみてください。​