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老人クラブ参加者におけるオーラルフレイル危険度別の咀嚼力の実態

更新日:2023年10月4日 ページ番号:0006236

地域看護学研究室 佐藤 愛<外部リンク>

緒言

 オーラルフレイルとは、滑舌低下、食べこぼし、軽度のむせの増加、噛めない食品の増加など、口腔機能の初期段階の衰えのことを言います(三浦 他 2016)。近年、オーラルフレイルが高齢者の生活機能低下につながることが明らかとなり、早期に発見し対処することが求められています。そこで、簡便な主観的評価法としてオーラルフレイルのセルフチェック表が作成され、通いの場での活用が望まれています(日本歯科医師会 2020)。しかし、セルフチェック表によるオーラルフレイル危険度と、咀嚼力等の客観的指標との相違は明らかになっていません。そこで本研究では、セルフチェック表によるオーラルフレイル危険度別の咀嚼力の実態を明らかにし、オーラルフレイルを早期発見するための方策について検討することを目的としました。​

方法

 2022年9月に実施されたA地区老人クラブの例会参加者26名に対し、質問紙を用いた聞き取り調査と咀嚼力測定を行いました。調査項目は、性別、年齢、セルフチェック表としました。セルフチェック表は、①半年前と比べて、堅い物が食べにくくなった、②お茶や汁物でむせることがある、③義歯を入れている、④口の乾きが気になる、⑤半年前と比べて、外出が少なくなった、⑥さきイカ・たくあんくらいの堅さの食べ物を噛むことができる、⑦1日に2回以上、歯を磨く、⑧1年に1回以上、歯医者に行くの8項目について、「はい」もしくは「いいえ」のどちらかに回答してもらいました。各項目を点数化し、セルフチェック表判定基準に基づいて、合計得点0~2点の者をオーラルフレイル危険性低い群(以下、低い群)、3点の者を危険性あり群(以下、あり群)、4点以上の者を危険性高い群(以下、高い群)と判定しました。咀嚼力は、咀嚼チェックガムを用い、色味の変化であるa*値を測定しました。同時に目視にて10段階カラースケール判定を行いました。分析は、単純集計を行い、3群間の咀嚼力の比較を行いました。​

結果

 対象者26名の平均年齢は80.73±5.64歳でした。オーラルフレイルの危険度は、低い群8名(30.8%)、あり群8名(30.8%)、高い群10名(38.4%)でした。対象者26名のうち咀嚼力測定可能であった者は20名(76.9%)であり、ガム咀嚼困難等を理由に測定を断られた者は、低い群1名、あり群1名、高い群4名でした。咀嚼力a*値の平均値は18.49±5.92であり、低い群20.01±5.16、あり群16.89±6.56、高い群18.57±5.44でした(図1)。10段階カラースケールの中央値(範囲)は8(4-10)で、低い群8(7-10)、あり群8(4-10)、高い群8(6-​9)でした。低い群とあり群の中に、a*値が10以下と著しく低い者が2名しました(図2)。この2名は主観的咀嚼能力低下なしと回答していました。​

オーラルフレイル危険度

咀嚼率

考察

 あり群と高い群は、実測による咀嚼力の平均値が低い群より低下していることが明らかになりました。また、ガム咀嚼困難等を理由に測定不可だった者は高い群で多くなっており、あり群や高い群の咀嚼力は低下していることが考えられました。
 一方で、低い群やあり群の中でも、咀嚼力が著しく低下している者がいました。普段の食事で柔らかい食物を摂取することが多いと、咀嚼力低下を自覚することが難しく、セルフチェック表による主観的評価のみではオーラルフレイルを正確に判定できない場合があることが推察されました。そのため、セルフチェック表等の主観的評価と複数の客観的指標を用いてオーラルフレイルをスクリーニングする必要があると考えます。

*本研究は、地域看護学研究室の卒業研究生と共同で行った研究成果の一部を抜粋したものです。第68回大分県公衆衛生学会(2023)で発表しました。​​