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自分らしい介護生活を再構築するために家族会から得られるピアサポート ―認知症高齢者を支える家族介護者の語りから―

更新日:2024年3月13日 ページ番号:0006533

NP研究室 甲斐博美<外部リンク>

はじめに

 我が国の認知症高齢者は、2025年には約700万人となると推測されています。家族介護者には、認知症症状に向き合うストレスや受容困難、介護の抱え込み、相談交流資源の不足や利用困難等、様々な切迫した問題があり、更に、余暇活動の減少や諦め、仕事のスケジュールの調整などに追われ、自分らしく過ごす時間が圧迫されることが報告されています。介護者への支援のひとつに「公益社団法人 認知症の人と家族の会」(以下、家族会とする)があり、家族介護者が、長期に自身の生活を維持しつつ介護を継続していくためには、ピアサポーターとなる介護体験者とかかわりが持てる家族会の存在は大きいと言えます。そこで、家族介護者が、家族会への参加によって自分らしく介護できるようになったと感じたプロセスを整理し、自分らしい介護生活を再構築するために家族会から得られたピアサポートを明らかにすることを目的に研究しました。

対象と方法

 研究協力の同意が得られた家族会に参加する家族介護者4名を対象としました。家族会入会から現在までの過程で「自分らしい介護生活を確立していくために得られた支援」を明らかにするためのインタビューを実施し、家族会から支援を受け、自分らしく介護できるようになったと感じた語りにあったピアサポートの内容を分析しました。
 本研究は本学の研究倫理安全委員会の承認を受けて実施しました。

結果・考察

 象者は全員女性で平均年齢は68.5歳であり、介護をしている期間は8~15年(平均介護年数は12.5年)、家族会への参加期間は2~15年(平均年数は10.2年)、被介護者との関係は娘3名、妻1名でした。被介護者と同居している人が2名、別居している人が2名でした。被介護者は80代前半から90代後半であり、介護度は要介護2~5で、4名中3名が家族会入会時よりも高くなっており、4名とも介護保険サービスを受けていました。
 分析の結果、最終的に18の小カテゴリ、8つの中カテゴリ、2つの大カテゴリが抽出されました(表1)。

家族から得られたピアサポート

 家族介護者にとって、自分らしい介護ができるための家族会から得られたピアサポートについて分析した結果、8つの中カテゴリから①家族介護者としての自分に向き合う為の支援、②自分らしい介護生活確立への支援、が得られました(図1)。​

家族から得られたピアサポート

 家族会では、仲間に支えられ、〈思いを表出しゆとりを持つことができる場〉があり、家族介護者がリフレッシュして介護に戻れていました。更に、ひとりで抱えていた介護を公表し、家族介護者と高齢者が互いに大切にされる存在であると自覚していく〈認知症を受け入れる後押し〉や、仲間同士の経験を共有し、信頼関係を築きながら〈お互いに支え合う力を強める〉支援がありました。この結果は、同じ境遇の仲間の存在からありのままの自分が受け入れられ、表出し、ゆとりを得ると同時に、被介護者との関係性に向き合っており、慈しみを感じ、認知症を受け入れられる支援を得ていると考えました。家族介護者は、受け止めてくれる環境に身を置くことで心のゆとりを感じ、自分の経験や仲間との関係性を通じ自分の介護に対する受け止めや葛藤に対峙していました。介護する上で、介護技術や知識だけでは成り立たず、介護する主体である家族介護者自身に内在する自己の受け止めを見逃してはなりません。今回の結果から、家族会参加による豊富な情報や自分らしい介護方法を選択し保証される環境などの介護生活確立に向けた支援との相互作用により更に強まったのではないかと考えました。家族会は、被介護者との関係性をも見つめ直せるような支援があり、各支援が積み重なり、相互に関係することにより、自分をありのままに受け入れてもらえることから自己信頼を確立することに繋がり、家族介護者としての自分に向き合う為の支援となっていました。
 家族介護者は、家族会で友達やつながりができ、〈生活圏内にいる仲間の存在に支えられる〉経験がありました。家族会の集いが身近にあることは、介護支援への入り口となり、生活の中に介護を組み込む一歩を踏み出すきっかけになっていると言えます。
 また、家族介護者は、〈豊富な情報〉から〈自分らしい介護方法を選択できる〉、自分のペースでできる暮らしを維持し、〈自分自身の生活やペースに適した介護方法を保証される〉環境がありました。介護・家庭環境は様々であり、見事な技や他者の実践が自分に合った方法であるとは限りません。家族介護者は、経験者の真似をすることや、自分自身の暮らし方に合わせて取捨選択し、人と比べない介護をする力を持つようになっていきました。また、自分にプレッシャーをかけず、自分の生活を制限しすぎなくてもよいという仲間からのメッセージに支えられながら、自分の生活に介護を適応させていました。更に、フォーマルサポートの利用や、趣味を継続する時間を大切にし、楽しむ努力をしていた。自信をもって自分の役割を発揮できる関係や居場所があることや、〈ありのままの心情を受け止めてくれる環境〉があることも影響し、介護生活の確立に寄与するのではないでしょうか。
 身近な仲間の存在に支えられる環境で、実体験を見聞きしながら介護方法を選択することは、自分なりに工夫する介護や暮らし方を後押ししてくれます。仲間からの支えによって、自分に向き合う支援を受け、介護を自分の生活に適したものを作り出し維持できるピアサポートは、それぞれの支援が相互に強め合い、介護における生活の再構築において、家族介護者をよりエンパワメントしている可能性があると言えます。
 これらの介護方法の獲得や仲間の存在による支援と、家族介護者としての自分に向き合う支援の双方が、相互に作用しながら積み重なることによって生活のエンパワメントを生み、自分らしい介護生活の再構築へと導かれることが示唆されました。

 本研究は、日本認知症ケア学会誌 22(3)583-591,2023 に掲載されたものを一部抜粋しています​。