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重症心身障がい児(者)施設・病院における 特定行為を必要とする入所者の状況と看護管理者の意識

更新日:2024年3月22日 ページ番号:0006543

小児看護学研究室 草野淳子<外部リンク>

背景と目的

 保健師助産師看護師法が一部改正され,「特定行為に係る看護師の研修制度」が法制度化され(以後この研修を受けた看護師を特定看護師とする),2015年10月に施行されました。本制度では,看護師が特定行為研修を修了することにより,高度かつ専門的な知識と技能を身につけ,患者の状態を見極め,より安全かつタイムリーに患者に必要な対応を行うことが期待されています。
 小児の領域では,A県の重症心身障がい児(者)施設(以下施設とする)に特定看護師が在籍し,入所者に対して気管カニューレ交換や胃ろうボタンの交換を実施しています。さらに臨時薬の処方の準備を行い,医師の診察前に体調不良者への情報収集・アセスメントをすることで,医師との連携や医師の業務の負担軽減・効果的な活動につながっていました。全国の公立法人入所施設での濃厚な看護や医療的ケアを必要とする超・準超重症児数が増加していることから,特定看護師が必要か否かは,検討課題と考えます。
 そこで本研究では,施設と重症心身障がい児(者)が入院している病院の看護管理者(看護部長)を対象に,特定行為(21区分38行為)を必要とする入所者の状況と特定行為の必要性の意識を明らかにすることを目的とし実施しました。

対象と方法

 調査期間は2017年7月~8月であり,無記名自記式質問紙にて実施しました。対象者は重症心身障害児(者)施設・病院204か所の看護管理者とし、調査項目は属性が性別,年齢,病床数,医師数,看護職数の5項目でした。また,特定行為21区分38行為に該当する施設の入所者数1項目,特定行為21区分38行為を看護師が行う必要性について,特定看護師の必要性と特定行為研修を自施設の看護師に受けさせたいかについて40項目,自由記述1項目,合計46個の質問項目でした。属性以外の質問項目は,「全く思わない」を1点,「あまり思わない」を2点,「やや思う」を3点,「大いに思う」を4点としました。
 本研究は所属施設の研究倫理安全委員会の承認を受けました。

結果

 全国の重症心身症がい児(者)施設130か所・国立病院機構重症心身障がい児(者)病棟74か所の看護管理者204名に調査の依頼をし,有効回答数は69部(有効回答率33.8%)でした。
 看護管理者の性別は,女性59人(85.5%),男性10人(14.5%)でした。年齢の平均は53.8歳であり,50歳代が43人(62.3%)と最も多かったです。病床数の平均は97.8床であり,勤務している医師数については,平均が6.1人でした。看護師数については,平均が51.9人でした。また,特定看護師が在籍する施設はありませんでした。
 施設内での特定行為を必要とする入所者は「胃ろうカテーテルもしくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換」が23.9±16.3人と最も多かったです。
 看護管理者が考える特定看護師が行為を行う必要があると考える項目のうち,「全く思わない」「あまり思わない」を合わせた回答が多かったのは,「侵襲的陽圧換気の設定の変更」43人(62.3%),「非侵襲的陽圧換気の設定の変更」39人(56.5%),「人工呼吸器からの離脱」45人(65.2%),「膀胱ろうカテーテルの交換」41人(59.4%),「抗けいれん剤の臨時の投与」51人(73.9%),「抗不安薬の臨時の投与」37人(53.6%)でした。看護管理者の「大いに思う」「やや思う」を合わせた回答が多かったのは,「気管カニューレの交換」44人(63.8%),「経口用気管チューブ又は経鼻用チューブの位置の調整」36人(52.2%),「胃ろうカテーテル若しくは腸ろうカテーテル又は胃ろうボタンの交換」42人(60.9%),「抗精神病薬の臨時の投与」45人(65.3%),「感染徴候がある者に対する薬剤の臨時の投与」37人(53.6%)でした。
 看護管理者が「施設内で特定看護師は必要であるか」の項目について,「大いに思う」と答えたのは12人(17.4%),「やや思う」は26人(37.7%)でした。また,「特定行為研修を受講させたいか」の項目について,「あまり思わない」は31人(44.9%),「全く思わない」は6人(8.7%)でした(表1)。

看護管理者が考える重症心身障害児施設での特定行為の必要性

考察

 人工呼吸器の設定の変更や離脱などは,変化に対応しなければならない処置のため,看護管理者は特定看護師が行うには難しいと考えたと推察します。施設に入所する重症児(者)は閉塞性・拘束性の呼吸障害があり,呼吸管理のために気管切開や人工呼吸器の使用が必要です。しかし,呼吸器関連の特定行為の種類によって,看護管理者の考えは特定看護師が実施しても良いとする項目に差が見られたと考えます。
 「施設内で特定看護師は必要であるか」という質問に対して,肯定的な回答は55.1%でした。しかし,「特定行為研修を受講させたいか」という質問に対しては,否定的な回答が53.6%と多かったです。施設の看護管理者は,自施設の問題として考える場合は,それが難しい状況であることが伺えます。先行研究では,「医師と連携がはかれており,医師の指示のもと一般看護師が行っているため十分である」,「看護師が侵襲の大きい医行為を実施するのは危険である」などが示されています。​

まとめ

 特定行為研修を自施設に取り入れるためには,そのための準備が必要です。したがって,各施設では医師の協力を得て,特定行為の教育と実施の基盤づくりをし,今後は看護師の特定行為の実施体制を整えていくことが必要と考えます。

 本研究は小児保健研究 第81巻 第1号,2022に掲載された論文の一部です。​