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看護学生の考える教員のシビリティ(civility) -計量テキスト分析による検討-

更新日:2024年6月18日 ページ番号:0006873

健康情報科学研究室 佐伯圭一郎<外部リンク>

はじめに

 職場でも教育現場でも,ハラスメントとまではいかなくても,人間関係にトラブルやストレスが生じると仕事や学業に悪影響を与えます。逆に,人間関係を良好なものにできれば,良い影響がもたらされることが期待できます。私は,看護教育の場の人間関係を良好にすることを目指した,以下の2つの研究(研究代表者:沖縄県立看護大学,金城芳秀教授)に足かけ8年,研究分担者として参加してきました。

・看護教育におけるインシビリティー(incivility)尺度の開発. 2016~2019, 基盤研究(C) (課題番号: 16K11925)

・看護学生のシビリティー(civility)を育むアクションリサーチ. 2019~2023, 基盤研究(C) (課題番号:19K10809

 シビリティ(civility)とは,他者への配慮,思いやり,礼節という人間関係を円滑に,相互に良いものとするための態度,言動(Forni,2002)とされています。我々の研究チームは,その欠如から引き起こされるインシビリティ(incivility)は学びの環境を弱体化させるものと考え,シビリティ・インシビリティを評価する方法,さらには教育現場でシビリティを育む手段を研究しました。最終的なゴールとして,学生と一緒になってシビリティを育むための活動の実践を目指していたのですが,covid-19流行のために研究の終了が伸びていたものです。
 研究の全体像は,上記科研テーマの研究成果報告書を科研費助成事業データベース(https://kaken.nii.ac.jp/ja)からご覧いただくこととし,今回は,看護学生を対象としたフォーカスグループインタビューによる質的研究(金城他,2019)で作成されたインタビューの逐語録テキストデータを近年では看護研究の手法としても一般化した計量テキスト分析で私が解析した結果を紹介します。

目的

 シビリティとインシビリティの概念を文献から整理し,看護学生を対象としたインタビューをもとに,教員のシビリティとインシビリティについて質的帰納的分析を行った先行研究(金城他,2019)に続き,質的研究と量的研究の中間段階として,計量テキスト分析により看護学生の考える教員のシビリティについて整理を試みることを主たる目的とする。また,インタビューの他の部分についても分析を試みるとともにインタビューから作成したテキストデータへの計量テキスト分析という手法の適応自体に関しても考察する。

方法

 インタビューの逐語録を分析対象とした。平成28年2月から平成29年7月に,3大学の看護学部においてそれぞれ5名の4年生を対象とした約1時間のグループインタビューを2名の大学院生がインタビューガイドに従って実施した。逐語録をテキスト化する段階で,具体的な人名,施設名,大学名などはマスキングしている。テキスト化したデータは,研究者間でチェックしたものをまとめ,学生が経験したシビリティに関する語りとインシビリティに関する語りの部分,および総括として「教員の立場で考えるシビリティ」についての語りに分割した3つのテキストファイルとし,計量テキスト分析の初期データとした。
 インタビューアーの質問部分はテキストから除去したが,具体的な例を示した質問に学生が同意するといった場面では,学生の発言の一部をインタビューアーの質問で置き換える処理を行った。また,分析に際して類義語の置き換えの処理(例えば「先生」を「教員」に)を一部で行っている。分析にはKH Coder(樋口,2014, http://khcoder.net/ )(Windows版2.00f )を利用した。分析は,前処理の後,単語の出現頻度の分析,出現語間の関連性を分析する方法として共起(共出現)ネットワークの作成を行い,結果を考察した。なお,本研究は沖縄県立看護大学研究倫理審査委員会の承認(第16017号)を受けている。
 ここでは,学生が「教員の立場で考えるシビリティ」を中心に,学生が経験したシビリティとインシビリティについても報告する。なお,「教員の立場で考えるシビリティ」についてのインタビューアーの発問は,若干の揺らぎはあるが「自分がもし教員なら学生にどういう風に向き合いたいか,教員の立場で学生に対するシビリティはどんなことか,について思っていること,意見を」という内容で行われている。

結果と考察

 学生が教員の立場で考えるシビリティについての語りのデータは15人,48文で,総抽出語1,572,異なる語数337であった。抽出された単語の頻度順リストで出現回数3回以上のものを表1に示す。語(出現回数3回,2文以上に出現)が同じ語りの中で同時に用いられる共起(共出現)パターンを可視化した共起ネットワークを図1(出現回数2回以上の語で作成)に示す。

単語出現頻度出現語の共起ネットワーク

 質的研究で抽出されたシビリティのカテゴリとの対応は弱いと考えるが,キーとなる言葉をその繋がりから機械的に分析した結果からも一定の示唆を得ることができたと考える。例えば,先行研究のサブカテゴリ「学生に関心を向ける」が,「実習」において,学生への「言葉」,「認める」などの関連からも示唆される。
 学生が経験したシビリティとインシビリティについても同様に前処理の後,単語出現頻度の分析と共起ネットワーク作成を試みた。単語出現頻度(5回以上)を表2に,それぞれ作成した共起ネットワークを図2,図3に示す。

   単語出現頻度

共起ネットワーク共起ネットワーク

 ここでは,出現頻度の高い単語とそれらのネットワークには類似の傾向がややみられるものの,シビリティおよびインシビリティの様態についてあまり有益な示唆は得られなかった。
 以上の様に,「教員の立場で考えるシビリティ」についての語りではある程度有効な解析であったと考えるが,他の部分においては今回の分析が成功であるとは言いがたい。その理由としては,「教員の立場で考える」部分は,一人ずつ基本的に一文で整理した形で回答するというデータであることに対して,それ以外の部分がグループインタビューによるデータであったことが主たることとして考えられる。最初から文章として回答される記述式アンケートなどと異なり,インタビューデータでは,前後の関係から単語の省略が発生したり,非言語的な表現が見られたり,機械的にテキスト化したデータにはオリジナルデータとしての限界が存在し,人による深い意味を読み解く質的解析を必要とすると考える。
 しかし,質的分析と並行して相補的にデータを見る手法として,また,先入観にとらわれずデータを分析する方法として,計量テキスト分析について検討を継続していく必要があると考える。

文献

​Forni,P.M.(2002)/上原由美子訳(2012):礼節「再」入門,ディスカバー・トゥエンティーワン,東京

樋口耕一(2014):社会調査のための計量テキスト分析,ナカニシヤ出版,京都

金城芳秀,他(2019):看護系大学生が認識する教育学習環境のシビリティとインシビリティ:フォーカス・グループインタビューデータの質的分析,日本看護科学会誌,39, 165-173, https://doi.org/10.5630/jans.39.165