ICUせん妄の医療経済評価に関する研究
成人看護学研究室 古賀雄二<外部リンク>
はじめに
せん妄は、病気の影響による身体的要因や不安などの精神的要因、生活環境の変化などによって生じる一過性の急性脳機能障害です。特に、集中治療室(ICU)患者はせん妄発症率も高く、ICU退室後も認知機能の低下や生活の質(QOL)の低下につながることが示されており、せん妄の評価や対策には看護師が深く関っています。
また、米国の医療制度下では、ICUせん妄発症による医療費の大幅な増加が示されました。近年、日本でも医療費高騰が社会問題となっていますが、日本の診療報酬制度下におけるICUせん妄重症度に伴う医療費への影響は明らかになっていません。
そこで、日本の診療報酬制度下において、ICUせん妄の重症度が医療費に与える影響を検討することを目的とした研究を行いました。
方法
2016年度の診療報酬改定が適用される期間内に、国内2施設(大学病院・総合病院)のICUに入室・退室したすべての心臓血管外科・食道外科予定患者を対象患者としました。
ICUせん妄重症度は、ICDSC(0-8点でせん妄重症度を評価できるせん妄評価スケール)を用いて測定しました。せん妄なし群(0点)、亜症候性せん妄群(1-3点)、せん妄群(4-8点)に群分けし、ICUせん妄重症度の最高値(ICDSCMax)と(1)ICU入室期間、(2)総入院期間、(3)ICU入室中の医療費の関係を分析しました。
結果と考察
2施設合計122名分のデータが得られました。
(1)ICU重症度最高値とICU入室期間
0点群vs1-3点群、0点群vs4-8点群に有意差があり(図1)、ICUせん妄重症度が高いほどICU入室期間が延長する傾向が示されました。
(2)ICUせん妄重症度最高値と総入院期間
0点群vs4-8点群に有意差があり(図2)、ICUせん妄の重症度が高いほど総入院期間が長くなる傾向が示されました。
(3)ICUせん妄重症度最高値とICU入室中の医療費
すべての群間に有意差があり(図3)、ICUせん妄の重症度が高いほどICU医療費は増加する傾向が示されました。
ICUせん妄重症度はICU入室期間や総入院期間を延長させ、日本の診療報酬制度下における医療費を増加させる可能性があります。日本の臨床には、ICUせん妄重症度評価を導入し、せん妄対策を推進することが推奨されます。
この研究紹介は、以下の論文の一部を抜粋・改変したものです。ご興味のある方は、オンラインで全文閲覧可能です。
Yuji KOGA, et al. ICU Delirium Severity Assessment Needs to be Introduced into the Japanese Medical Fee System, Kawasaki Journal of Medical Welfare,27(2),111-119,2022.