在日インドネシア人ムスリム女性の結核に対する認識と態度
国際看護学研究室 桑野紀子<外部リンク>
はじめに
WHOが2024年8月に公開した“The top 10 causes of death”には感染性疾患が3つ含まれており、第2位COVID-19、第5位下部呼吸器感染症であり、第10位には結核が浮上した(WHO Fact sheets 2024)。
日本の結核罹患率は2022年に8.2(人口10万人対)に減少し、結核低蔓延国の水準である10.0以下となり初めて低蔓延国に分類されたが、欧米諸国に比べるといまだ罹患率は高く、現状として年間約1万人が発症、約1,600人が死亡している(厚生労働省 2023)。また、日本の周辺アジア諸国では、結核罹患率が650であるフィリピンをはじめ、ベトナム、インドネシア、ミャンマーなど罹患率が100以上である高蔓延国が多く、日本の新登録結核患者のうち、在留外国人が全体の約16%を占め、20歳代では約84%を占めている(厚生労働省 2023)。
外国出生結核患者出生国の上位6か国の中でも、インドネシアはイスラム教徒の割合が86.7%と約9割を占めていることが特徴的である(外務省HP)。在留外国人の中でも特にムスリム女性は家族以外の男性に肌を見せることが禁じられているため、受診の際は女性医師にかかる必要があるが、日本ではそうした背景への周囲の理解不足や保健医療に関する情報へのアクセス困難から受診が遅れるリスクが高い。
そこで今回、必要な支援について検討する資料とするため、在日インドネシア人ムスリム女性の結核に対する認識・態度について調査したので、その一部を紹介する。
方法
調査期間は令和4年9月~10月であった。インドネシア出身で18歳以上の在日ムスリム女性を対象とし、Googleフォームによる無記名アンケート調査を行った。
結果と考察
結核のイメージについて、「若者や高齢者に限らず、自分を含め誰もがかかる可能性のある怖い病気である」と考えている人が多く、結核高蔓延国であるインドネシアで得たイメージが低蔓延国である日本在住の現在のイメージにも影響を与えていた。態度では、自分が感染した場合「なるべく一人でいた方がいい」等と考えている人が多く、結核が感染性疾患であることを理解している一方で、罹患したことを隠したいと思っている人は約3割にとどまっていた。山路ら(2009)は日本での結核について、患者は社会から差別されることで孤立化し、疎外されることに対する不安を抱くと述べ、結核に対するスティグマの存在を示唆しているが、インドネシアではそうしたスティグマはあまりなく、結核を社会全体の問題と捉えていると推察する。知識では、結核が重症化した際の症状である「喀血」を約3割の人は認識できていなかった。早期発見・早期診断のためにも適切な知識を身に着け、治療を受けてもらえるよう日本でも結核の情報提供を推進し、医療機関にアクセスしやすい環境を整える必要がある。
引用文献
- WHO Fact sheets https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/the-top-10-causes-of-death (最終閲覧日:2024年12月11日)
- 外務省(2022).インドネシア共和国 基礎データ. https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/indonesia/data.html(最終閲覧日:2024年12月11日)
- 山路由美子,田口修,櫻井しのぶ(2009).結核患者の発症時の心理に関する研究-病気に対する認識と発症時の思いについて-.三重県立看護大学紀要.13.7-18
本研究は、国際看護学研究室所属卒論生光吉麻奈美さんと共に取り組んだ研究の一部である。