立ち上がるときの「かけ声」は筋肉と負荷の感じ方にどう影響するのか?
成人看護学研究室 佐藤栄治<外部リンク>
はじめに
椅子から立ち上がる動作は、私たちが毎日何度も行う基本的な動作のひとつです。この動作では、足やお腹、背中の筋肉をうまく使いながら、バランスをとって立ち上がる必要があります。
運動中に「どっこいしょ!」などのかけ声を発することは、筋肉の力を引き出す効果があることが知られています。しかし、かけ声をかけることで立ち上がるときの体の負担が軽く感じるのかどうかについては、まだ十分に研究されていません。
そこで、本研究では、立ち上がるときにかけ声を発することが、筋肉の働きと「どれくらいきついか」という感じ方にどのような影響を与えるのかを調べました。
方法
20名の健康な人を対象に、立ち上がり動作をするときの筋肉の動きを「筋電図」という装置で測定しました。また、「どれくらいきついか」という感じ方を数値で表す方法(マグニチュード推定法)を使って評価しました。データの分析には、統計的な方法(t検定)を使い、発声の有無による違いが偶然ではないことを確認しました(有意水準5%)。
結果
図1より、大殿筋(お尻の筋肉)と大腿二頭筋(太ももの裏の筋肉)は、かけ声を発したときにより強く働きました(p<0.05、p<0.01)。
図2より、かけ声を発したときのほうが「立ち上がるのが楽に感じた」ことがわかりました(p<0.01)。
考察
立ち上がるときには、足の筋肉だけでなく、腹筋や背筋の筋肉も重要な働きをします。過去の研究では、かけ声を発すると息を吐く筋肉の活動が増え、それにより腹筋や背筋の筋肉が同時に働き、体が安定しやすくなることがわかっています。
今回の研究でも、大殿筋や大腿二頭筋の筋肉が強く働いていたことから、かけ声を発することで体がより安定し、立ち上がるときの動きがスムーズになったと考えられます。
まとめ
椅子から立ち上がるときにかけ声を発すると、足の筋肉がより強く働き、体のバランスが安定しやすくなります。そして、実際には筋肉を使っているにも関わらず、「立ち上がるのが楽に感じる」こともわかりました。この研究結果は、運動の効果を高めたり、高齢者が安全に立ち上がるためのトレーニングに活かせる可能性があります。
謝辞
本研究は、JSPS科研費(21K10664)の助成を受けて実施されました。また、本掲載内容は、看護理工学会誌 2023年 第10巻に掲載された内容の一部です。本研究の実施にあたり、ご理解とご協力を賜りました皆様に心より感謝申し上げます。